刑事裁判とは
刑事裁判とは、被告人の行為について、犯罪の成否と科す刑罰の重さを決定する手続を言います。平たく言えば、
- 検察官の主張する犯罪が実際にあったのかどうか(犯罪の成否)
- その犯罪を起こしたのが被告人かどうか
- 被告人が犯罪を起こしていた場合に、懲役や罰金など、どのような刑罰をどの程度の重さで科すべきか
この3点について判断する手続が刑事裁判です。
刑事裁判では、犯罪の成立に関する事実と科すべき刑罰を主張する検察官、それらの主張に反論する被告人、被告人のサポートをする弁護人、それぞれの主張を総合的に判断する裁判官が手続に関与します。
以下では、刑事裁判の流れを概観しながら、各手続において被告人ができること、弁護士が弁護人としてできることを見ていきます。
刑事裁判の流れ
ここから具体的に刑事裁判の手続きを見ていきます。
刑事裁判の始まり
刑事裁判は、検察官による公訴提起、つまり起訴によって始まります。検察官は、事件について、起訴するか否かを決定する権限を有しています。検察官が、事件の軽重その他の事情を考慮して、起訴して刑罰を科すべきだと判断した場合には、事件を起訴します。
検察官は起訴状を作成し、裁判所に送ります。起訴状には、検察官が成立すると考える犯罪に関する事実(公訴事実)のみが記載されます。具体的な証拠などが記載されることによって、裁判所が事件について予断を抱くのを防ぐためです。
起訴状は、被告人の下にも謄本が送られます。被告人としても、自分がどんな事実で起訴されたのか正確にわからなければ、どう反論すればいいのかわからないからです。
弁護人は検察官に証拠開示を請求し、検察官が持っている証拠を閲覧謄写して証拠関係を確認します。弁護人は、この段階で、裁判がどのような見通しになるか、どうやって被告人を弁護するかといった点について検討します。
冒頭手続
裁判所における裁判は、まず冒頭手続から始まります。冒頭手続とは、公訴事実の確認よりも前に行われる手続きです。
具体的には、人定質問、起訴状朗読、権利告知、被告人・弁護人の陳述の4つです。
つまり、最初に、法廷に来た人が本当に起訴状に載っている被告人かどうか確かめたうえで、これから審理・判断することになる事実を検察官が読み上げます。裁判官は被告人に黙秘権その他の権利を告知したうえで、検察官が読み上げた事実について被告人と弁護人の意見を確認します。
ここで、弁護人は被告人とともに公訴事実に対する陳述を行うのは当然ですが、それだけではなく、起訴状に曖昧だったり不明確な点があれば、裁判所を通して検察官に説明を求めることができます。
証拠調べ
冒頭手続により、検察官の立証しようとする事実が明らかになったあと、証拠調べ手続に入ります。これは、検察官と弁護人がどのような事実を、どのような証拠から立証しようとしているのかを述べたうえで、裁判の場で証拠を調べる手続です。証拠調べにおいては、証拠物は展示し、書証は朗読し、証人は尋問することによって行います。
裁判において、主張が事実として認められるためには、それを裏付ける証拠が必要になります。ただ、検察官は警察を使って証拠を集めることができますが、被告人はそのような手段を持っていません。
その点を考慮し、検察官は犯罪の成立について、合理的に疑いのない程度に立証しなければなりません。つまり、検察官は、「被告人が公訴事実の犯罪をした以外の可能性は、合理的には考えられない」という程度にまで、事実を立証しなければならないということです。
一方、被告人・弁護人は、自分たちでも事実を主張し、証拠を提出することで、別の可能性もあり得ることを示していくことになります。
裁判所の判断は、証拠に基づいてなされますから、公判での弁護人の役割の中で、証拠調べにおける立証活動は、最も重要なものと言っていいでしょう。
論告・求刑、弁論、意見陳述
証拠調べが終わると、検察官と弁護人双方が、どのような結論を求めるのか、また、その結論はどのような理由に支えられているのかを主張する手続に入ります。
まず、検察官が、論告・求刑を行います。検察官は、どのような証拠から自らの主張する公訴事実が認められるかを述べます。また、どのような刑罰を科すべきかは、行った犯罪そのものだけではなく、被告人の動機や境遇、今後の再犯可能性等を考慮して決定しますので、検察官はその点についても主張立証が尽くされていることを述べます。そして、犯罪の成立と事件に関連する事情を考慮して、どの程度の科刑を求めるかを述べます。
次に、弁護人が弁論を行います。弁護人は、否認事件では、検察官の主張する事実がどのような点から認められないか、証拠等を踏まえて主張し、公訴事実が認められないことを述べます。一方、被告人が自己の行為について認めている事件であれば、刑を軽くすべき事情について、主張立証してきたことを主張し、被告人について刑を軽くすべきことを述べます。
最後に、被告人本人の陳述がなされます。発言内容は被告人の自由にゆだねられていますが、弁護人の弁論に続いて端的に事件について述べ、反省の弁などを述べることが多いです。
判決
以上の手続を経て審理が結審されたのち、裁判所により事件の判決が下されます。裁判所は、いかなる証拠からいかなる事実が導かれるか、導かれた事実からどのようなことが言えるかを判断し、これらを総合して、被告人について公訴事実記載の犯罪が成立するかどうかを判断します。そして、犯罪が成立すると判断した場合には、刑を決めるにあたって考慮した事情を考慮し、被告人にいかなる刑罰を科すかを決定します。
判決では、被告人に結論(無罪か科すべき刑)を述べてから、認定した事実と理由について述べるという形が一般的です。
判決は、裁判所が判決を宣告する手続なので、検察官、被告人・弁護人に役割はありません。しかし、刑事裁判の第一審では、原則として検察官、被告人・弁護人の出頭が要求されています。
判決後
判決により刑事裁判の手続はいったん終了しますが、まだ刑が確定したとは言えません。
上訴
上訴とは、判決に対し不服申立てをし、上級裁判所(第一審のあとであれば高等裁判所)で事件について再度審理してもらうための手続になります。上訴は、検察官がすることもできますし、被告人・弁護人がすることもできます。
上訴自体は、判決に不満がある限りすることができますが、上訴することで裁判がやり直せるわけではありません。上訴裁判は、それまで裁判を経てきたことを踏まえてなされるものであって、新たに手続を始めるわけではないからです。したがって、たとえ上訴することができるといっても、第一審の裁判で手を抜いてよいというわけではなく、一審こそ充実した弁護活動を展開すべきと言えるでしょう。
判決の確定
判決に対しどちらも上訴しないまま、判決の宣告の次の日から14日経つと、判決が確定します。判決の確定とは、裁判所の判断に対し争えなくなることを言います。有罪判決が確定すると、判決に記載の犯罪事実があったものと確定するとともに、被告人への宣告刑が執行可能になります。一方、無罪判決であれば、判決に記載の犯罪事実がなかったものと確定します。
刑の執行
有罪判決が確定すると、宣告刑が執行可能な状態になります。懲役刑であれば、刑務所に収容されることになり、罰金刑であれば、検察官の命令によって執行することになります。
刑事裁判での弁護士の役割
刑事裁判で被告人の権利を守り、被告人のために証拠を集めることができるのは弁護人だけです。弁護人は事件の詳細を調査し、検察官が保持している証拠を分析して、被告人に最も有利な弁護活動を選択します。また、被告人の保釈請求には、事実上弁護士の存在が欠かせません。
刑事裁判が開始される前に弁護士にご依頼いただくことで、事件に応じた、適切な弁護が可能になります。刑事事件に巻き込まれたご本人・ご家族の方は、まずは当事務所にご相談ください。