京都市伏見区 無料相談 保護責任者遺棄事件
- 2020.04.20
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 京都支部
保護責任者遺棄罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 京都支部が解説します。
京都府京都市伏見区に住むAさんは運転中に通行人Vさんを轢いて、重傷を負わせてしまいました。
しかし、Aさんは人通りの多い街中でVさんを轢いたため誰かが助けるだろうと考えそのままVさんを放置しました。
救命活動がなされていればVさんは助かったのですが、Aさんが放置したことによりVさんは死亡してしまいました。
このような場合Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
また、Aさんが人通りの少ない山奥でVさんを轢いてしまった場合には罪の成立は異なるのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~保護責任者遺棄罪~
本件でAさんがVさんを轢いてそのまま放置したことでVさんは死亡しています。
このようなAさんの行為は保護責任者遺棄罪(刑法218)にあたる可能性があります。
まず、保護責任者遺棄罪の条文を確認します。
刑法218条 「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。」
この条文から保護責任者遺棄罪が成立するには①「保護する責任にある者」であること②客体は「老年者、幼年者、身体障害者又は病者」であること、また③「遺棄」または「必要な保護をしない」ことが必要であると考えられます。
本件の場合では、Vさんは死亡に至るほどの重傷を負っていることから扶助が必要な「病者」であるといえます。
よって、②の要件は満たすと思われます。
そして③「必要な保護をしない」とは、簡単には場所的な離隔を生じさせずに保護責任を尽くさないことをいいます。
とすると保護が必要な者を置き去りにすることもこれに含まれるといえるので、本件Aさんの行為も「必要な保護をしな」かったと認められる可能性が高いです。
では、Aさんは①「保護する責任のある者」といえるのでしょうか。
「保護する責任のある者」と意義が問題となります。
これについては「法令・契約・慣習等により要扶助者の生命を保護すべき法律上の義務を有する者が「保護する責任のある者」と認められるのが一般的です。
例としては親権者等が法令による保護義務を有し、雇主等が慣習に基づく保護義務を有すると考えられることが多いです。
簡単には、要扶助者の生命の身体の安全が行為者に依然していると考えられる場合に保護義務が認められる可能性が高いです。
本件の場合でもVさんの生命・身体の安全がAさんに依然していると認められる場合には保護義務が肯定されると考えられます。
これを本件について見てみると、AさんがVさんを放置したのは人通りの多い街中であり他の者がVさんを救助することも十分考えられます。
とすると、Vさんの生命・身体の安全はAさんに依然しているとまでは認められない可能性が高いです。
このように判断されると、Aさんには保護責任者遺棄罪は成立しません。
対して、人通りの少ない山奥でVさんを放置した場合は他の者がVさんを救助することは見込めません。
よって、Vさんの生命・身体の安全はAさんに依存していると判断される可能性が高いです。
このような場合、Aさんは「保護する責任のある者」といえるので(①)Aさんには保護責任者遺棄罪が成立します。
そしてその結果Vさんが死亡しているので、Aさんには遺棄致死罪(刑法219条)が成立すると考えられます。
もし、Aさんが殺意をもってVさんを放置していた場合には殺人罪(刑法199条)が成立する可能性もあります。
~参考条文~
刑法199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法219条 前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。