京都府京丹後市 逮捕 殺人事件
- 2019.10.17
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 京都支部
京都府京丹後市に住むAさんは友人Vさんと仲が悪かったため、Vさんを殺害しようと考えました。
そこでAさんは事故に見せかけるため、クロロホルムをかがせて気絶させた状態でVさんを車に乗せて車ごとVさんを海に沈めました。
結果Vさんは死亡したのですが、司法解剖によるとVさんの死因は溺れたことによる窒息死ではなくクロロホルムの摂取による呼吸停止でした。
AさんはクロロホルムでVさんを殺すつもりはなかったのですが、この場合でもAさんに殺人罪の成立を認めることはできるのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~殺人罪~
本件でAさんは車を海に沈める行為(第2行為)でVさんを殺害するつもりであり、クロロホルムを吸引させる行為(第1行為)ではVさんを殺害するつもりはありませんでした。
結果として第1行為でVさんが死亡してしまったとしても、Aさんには殺人罪(刑法199条)が成立するのでしょうか。
まず、AさんがVさんにクロロホルムを吸引させる行為が殺人罪の実行の着手といえるかが問題となります。
実行の着手が認められない場合は犯罪に当たる行為をしていない以上、未遂罪も成立しません。
この点法律の専門的な用語では、実行の着手とは「構成要件を実現する現実的危険を有する行為」をいうと考えられています。
具体的には、窃盗罪における他人の物を自身の占有下に置こうとする行為や詐欺罪における相手を欺く行為等が実行の着手と判断される可能性が高いです。
今回のように第1行為と第2行為が存在するところ第1行為が第2行為に密接な行為であり、第1行為を開始した時点で結果発生の危険性が明らかに認められる場合には実行の着手があると考えられます。
本件ではクロロホルムをBさんにかがせる行為はAさんによる殺害を実行するためには不可欠なものであり、第1行為と第2行為は密接な行為であると言えます。
また第1行為が成功した場合殺害を遂行する上で特段障害となる事情は存在しないので、第1行為の時点で結果発生の危険性は明らかに認められます。
したがってAさんに第1行為、つまりクロロホルムをかがせる行為に実行の着手が認められます。
そしてそのような第1行為の結果Vさんは死亡していて、クロロホルムの吸引により死亡することは相当な結果といえるのでAさんの行為と死亡結果に因果関係が認められます。
最後に犯罪の成立には故意(罪を犯す意思)が必要(刑法38条1項)ですが、Aさんは第1行為の時点では殺人の故意がないので殺人罪は成立しないようにも思われます。
ただ一方でAさんはもともとVさんを殺すつもりであった以上、Aさんに殺人罪の故意を認めないことも妥当でないように考えられます。
このように行為者が計画していた因果関係と異なった方法で結果が発生した場合は、そのような錯誤(認識していた事実と客観的事実の不一致)は重要なものとはいえません。
したがって一連の行為に着手してその目的を遂げたといえる場合には、故意を認めることができると考えられます。
本件でもAさんは第1行為と第2行為という一連の行為に着手して、Bさんの殺害という目的を達成しています。
よって、Aさんには殺人罪の故意が認められる可能性が高いです。
以上よりAさんは殺人罪の実行に着手して結果を発生させており、また殺人罪の故意も認められるのでAさんには殺人罪が成立すると判断される可能性が高いです。
~参考条文~
刑法38条1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
刑法199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する