神奈川県横浜市 逮捕 風営法違反
- 2020.08.06
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 横浜支部
風営法違反について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
神奈川県横浜市に住むAさんは、小遣い銭欲しさから、アルバイトとして横浜市中区にあるソープ店の店長から依頼を受けて客引きを行っていました。そして、Aさんは、いつものように客引き行為を行っていたところ、横浜の伊勢佐木警察の覆面警察官に風営法違反で逮捕されてしまいました。また、ソープ店の店長も風営法違反で逮捕されたとのことです。従業員から依頼を受けた弁護士がAさんと接見しました。
(フィクションです。)
~刑事事件と身分犯~
刑事事件において犯罪を犯す者、つまり犯罪の主体は「人」です。
しかし、犯罪によっては、犯罪の主体に一定の身分が必要とされているものがあり、これを身分犯といいます。
今回、Aさんが逮捕された風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)違反についてみてみます。
すると、その28条12項に次の規定が設けられています。
風営法28条12項 店舗型性風俗特殊営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。
1号 当該営業に関し客引きをすること
2号 当該営業に関し客引きをするため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと
※罰則 6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は併科(風営法52条1号)
この規定をみてお分かりいただけるように、規制対象となる主体、つまり犯罪の主体が「店舗型性風俗特殊営業を営む者」とされていますから、風営法28条12項の客引きは身分犯ということになります。
身分犯には
・収賄罪(刑法197条)の「公務員」
・偽証罪(刑法169条)の「法律により宣誓した者」
・単純横領罪(刑法252条1項)の「占有者」
のように一定の身分がなければ犯罪を構成しない真正身分犯と、
・常習賭博罪(刑法186条1項)における常習者
・麻薬輸入罪における営利の目的
のように身分があることによって法定刑が加重されるか減軽される不真正身分犯とに区分されます。
上記の客引きは真正身分犯です。
なお、警察庁が発出している「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」と題する通達によると、「客引き」とは「相手方を特定して営業所の客となるように勧誘すること」をいうとされています。これからすると、相手方を特定する必要がありますから、単に、一般公衆に向かって「うちの店、いい女の子がいますよ」と言っても客引きには当たりません。また、営業所の客となるよう勧誘する必要がありますから、単に、特定の人に「お時間ありますか」、「いい女の子いますよ」などと言っても客引きには当たりません。
しかし、風営法では客引きのほかに、客引きをするため、道路その他の公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとう行為、も禁止されています。したがって、客引きには当たらなくても、道路その他の公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとったりすれば風営法で処罰されるおそれがありますから注意が必要です。
~アルバイトが「客引き」をしたら?~
では、客引きでは「店舗型性風俗特殊営業を営む者」が犯罪の主体であり、それ以外の者は客引きでは処罰されないかといえばそうではありません。
この点、確かに、本件で客引きを行ったAさんはアルバイトであり「店舗型性風俗特殊営業を営む者」とはいえなさそうです。このような身分を持たないものを非身分者といいます。しかし、刑法65条1項には次の規定が設けられています。
刑法65条
1項 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
2項 身分によって特に軽重があるときは、身分のないものには通常の刑を科する。
「犯人の身分によって構成すべき犯罪」とは本件の客引きです。
「身分のない者」とはアルバイトのAさんのことです。
そして、「共犯」には「共同正犯」(刑法60条)つまり、首謀者と意思を通じて犯す犯罪も含まれると解されていますから、アルバイトが店主と意思を通じて「客引き」を行った、と認められる場合は、アルバイトにも風営法28条12項1号もしくは2号が適用され処罰されることになるのです。
刑法60条
2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。