東京都江東区 逮捕 監護者性交等罪
- 2020.10.30
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部
監護者性交等について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
2014年,江東区在住のTは,児童施設で勤務していた。そしてその施設にいたF(当時8歳)を不憫に思い自らの養女に迎え入れた。2020年8月,Tは成長したFに好意を持ち,自宅にいたFに性行為を迫った。Fは,自分のことを救ってくれたTへの感謝の気持ちや,Tなしでは成り立たない現在の生活状況から,Tからの性行為を拒むことが出来なかった。その後数回に渡って,Tは性行為を迫り,Fも嫌悪感を抱きながらも反抗することが出来なかったが,耐えきれなくなったFは,東京湾岸警察署に相談しに行った。
Tは後に東京湾岸警察署に逮捕された。Tにはどのような罪が成立するのでしょうか。
・監護者性交等罪
第176条(強制わいせつ)
十三歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は,六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し,わいせつな行為をした者も,同様とする。
第177条(強制性交等)
十三歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は,強制性交等の罪とし,五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し,性交等をした者も,同様とする。
第178条(準強制わいせつ及び準強制性交等)
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,わいせつな行為をした者は,第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,性交等をした者は,前条の例による。
第179条(監護者わいせつ及び監護者性交等)
1 十八歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は,第百七十六条の例による。
2 十八歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は,第百七十七条の例による。
平成29年の刑法改正に伴い,性犯罪の規定が多く改正されました。例えば,改正前にあった強姦罪が無くなり,強制わいせつ,強制性交等罪が新たに設けられました。今回のケースにあたる監護者わいせつ,監護者性交等罪も改正で新たに設立された条文の一つです。これは近年の性犯罪の悪質化や,性に対する考え方が多様化している現代に合わせたものであるといえます。では,今回のケースが監護者性交等罪にあたるのか検討します。犯罪が成立するには,「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるので,まずは構成要件に該当するかから検討します。
第一に「十八歳未満の者に対し」ですが,強制わいせつ,強制性交等罪と異なり被害者が18歳未満の者であれば,本罪に該当します。今回のケースでは,Fは2014年に8歳であったため,2020年では13もしくは14歳であると考えられるので,本罪に該当します。第二に,「その者を現に監護する者である」です。「監護」というのは,民法820条においては親権に対する効力として規定されており,18歳未満の者に対する監督・保護のことを指します。すると「現に監護する」というのは,親子関係のみを指すように思えますが,本罪では”事実上”18歳未満の者を監督し保護するという関係にあるのであれば,「現に監護する」に該当する可能性があります。つまり実親だけでなく養親など該当するということです。「現に監護する」にあたるかどうかの判断材料としては,①同居の有無,②指導状況,③生活状況,④生活費の負担,⑤諸手続等を行う状況などが挙げられます。今回のケースでは,FとTは同居しているだけでなく,養女に迎え入れており,Tなしでは生活状況が成り立たないということなので,Tは「現に監護する者である」といえます。第三に,「影響力があることに乗じて」についてですが,監護者の何らかの行為を必要とするというわけではなく,黙示的な行為や挙動全般によって影響力を利用する行為も該当すると考えられます。なので,監護者であることを被害者が認識できない場合などは,監護者であることによる影響力があるといえない可能性があります。その場合は強制性交等罪が成立するでしょう。今回のケースでは,Fは行為者がTであることを認識しており,その上で感謝の気持ちや現在の生活状況を鑑み,性行為を拒むことが出来なかったため,本罪に該当するといえます。第四に,「性交等をした者は」ですが,改正前の強姦罪では,姦淫することが要件となっていました。つまり男性器を女性器に挿入しなければ強姦罪不成立となっていました。改正後は性交等に変更されましたが,これは性交,肛門性交,口腔性交のことを指します。今回のケースでは,性行為の内容が事細かに書かれていませんが,性行為を何度も行ったという事実はあるため,本罪に該当するといえます。
違法性に関しては正当防衛(36条1項)などの事実はなく,責任に関してもTは心神喪失者等でないので,以上見てきたことをまとめるとTの行為に監護者性交等罪(179条2項)が成立するといえそうです。
・問題点
刑罰を検討する前に,監護者わいせつ及び監護者性交等罪の問題点を解説します。
第一に,前述した通り親族であっても,監護する者として認められなければ本罪が成立しないということです。例えば,離婚した夫婦がその子供の親権を母親に譲渡した場合,数年後元父親が子供に性行為をした際に問われる罪として,監護者性交等罪が成立しない可能性があるということです。理由として,元父親が現在子供に生活の支援を全く行っておらず,同居など生活を共にしていると認められない場合,監護する者に当たらないとして,本罪が成立しないということになるからです。現在の法律では「現に監護する」に当たるかの判断が厳しいので,そういった性犯罪を本罪で処罰できないことが少なくありません。
第二に,第一の例の場合,強制性交等罪が成立しそうですが,子供が十三歳以上であるなら,暴行又は脅迫を行っていない限り,本罪で処罰することができないということです。十八歳未満の子供は精神的に未熟である場合が多いので,暴行や脅迫と言えるような行為がなくても元父親からの性行為を拒めないこともあるといえます。そうした場合,同意したとみなされ,場合によっては無罪の可能性もあります。
以上のように未成年に対する性犯罪は,立証することの難しさなどから,不起訴処分や被害届を出さないことが多いのが現状であるといえます。
・刑罰について
以上見てきたことをまとめると,Tの行為に監護者性交等罪(179条2項)が成立するといえそうです。では,成立したとしてどのような刑罰が科せられるのでしょうか。本条では「第百七十七条の例による」と書かれていることから,177条を見てみると,「五年以上の有期懲役に処する」と書かれています。なので期間に関しては,「五年以上二十年以下」となります。
・まとめ
よって,Tは監護者性交等罪(179条2項)にあたり,五年以上二十年以下の懲役が科せられるということになります。
刑に関しては初犯か前科を持っているか,どれだけの期間どの程度行われたか等によって変わります。