東京日本橋 逮捕 昏睡強盗
- 2021.06.13
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
昏睡強盗について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
2021年5月、東京都中央区在住のYは、日本橋駅付近の居酒屋Xで一人で酒を飲んでいた。Xの従業員Tは、金目欲しさから、Yの所持していた財布と携帯電話を盗もうと考え、Yの頼んだ酒に睡眠薬を混ぜた。1時間後、Yが睡眠薬の効果により眠ったのを確認したTは、Yのバッグから財布と携帯電話を盗み、「お客さん、もう閉店の時間だよ。」と言いながら、Yを店から追い出した。Yは店を出た後、フラフラとなりながらも、何とか自宅まで帰った。翌日、Yは財布と携帯電話が無いことに気付き、久松警察署に盗難届を提出した。その後、久松警察署の捜査によりTは逮捕された。
この場合、Tは何の罪に問われるでしょうか。
*フィクションです
・昏酔強盗罪が成立するか
強盗と聞くと、被害者に対し暴行や脅迫を用いて物を盗むというイメージがありますが、実は睡眠薬などを用いるケースも刑法では処罰の対象となっています。今回のケースでは、居酒屋の従業員が酒に睡眠薬を混ぜ、被害者を眠らせた後、財布と携帯電話を盗んだケースです。このような場合、どのような罪が成立するのか、以下検討します。昏酔強盗罪については、刑法239条に記されています。
第239条(昏酔強盗)
人を昏酔させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。
犯罪が成立するには、「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるので、構成要件に該当するか、から検討します。
第一に、「人を昏酔させて」ですが、「昏酔させ」るとは、意識作用に一時的又は継続的な障害を生じさせ、財物に対する支配をなし得ない状態に陥れる行為をいいます。昏酔方法に制限はありませんが、犯人自らが被害者を昏酔させることが必要です。そのため、例えば道端で眠っている人の所持品を盗むといった場合には、本罪が成立しないということです。今回のケースでは、TはYの注文した酒に睡眠薬を混入させ、Yを眠らせたので、Tの行為は「人を昏睡させて」に該当します。
第二に、「財物を盗取した者」ですが、「盗取」とは、財物の占有を奪取することをいいます。占有を奪取するということは、占有者の意思に反して、財物を自己又は第三者の占有下に移すということです。今回のケースでは、TはYのバッグから財布と携帯電話を盗んでいます。これはつまり、Yの意思に反して、自己の占有下に置いているといえるので、Tは「財物を盗取した者」に当たります。
第三に、昏酔強盗罪は窃盗罪と同様に、故意のほかに不法領得の意思が必要であるとされています。不法領得の意思の内容は①排除意思と②利用・処分意思の両者が必要とされています。不法領得の意思についての詳細な解説は,2020年11月4日のブログ「窃盗と施入離脱物横領」を参照してください。今回のケースでは、Tは金目欲しさから、Yの財布と携帯電話を盗み、これらを自己の物としようとし、かかる行為によって、通常は、その後財布の中の現金を使用すること、携帯電話から個人情報を抜き取ることや携帯電話を売って現金を手にすることなどが容易になるといえるので、不法領得の意思を否定するような事情はなく、Tに不法領得の意思が認められます。
次に、違法性と責任ですが、違法性に関しては正当防衛(36条1項)などの事実はなく、責任に関してもTは心神喪失者等でないので、以上見てきたことをまとめるとTの行為に昏酔強盗罪(239条)が成立するといえそうです。
・刑罰について
では成立したとしてどのような刑罰が科せられるでしょうか。本条では、「強盗として論ずる。」と書かれていることから、強盗罪の刑が科せられます。強盗罪の法定刑は「5年以上の懲役」なので、期間に関しては「5年以上20年以下」となります。
・まとめ
よって、Yの行為は昏酔強盗罪(239条)にあたり、「5年以上20年以下」の懲役が科せられるということになります。
刑に関しては、初犯か、前科を持っているか、によって変わります。
久松警察署 東京都中央区日本橋久松町8-1 03-3661-0110