千葉県柏市 無料相談 殺人事件の因果関係
- 2020.01.09
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 千葉支部
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 千葉支部が解説します。
千葉県柏市に住むAさんは柏駅で通行人Vさんとケンカをして感情が抑えられなくなり、殺意をもってVさんの顔面を何度も殴打し怪我をさせました。
その怪我によりVさんは出血多量で意識消失状態に陥ったのですが、そのあと以前からVさんを嫌っていたBさんがたまたま通りかかりVさんの腹部を何度も蹴り上げました。
その結果Vさんは死亡したのですが、Bさんの行為はAさんの死期を数分早めたに過ぎないものでした
このような場合Aさんに殺人罪は成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~因果関係~
本件でAさんはVさんを殴って怪我をさせ、その怪我が原因となってVさんは死亡しているのでAさんには殺人罪(刑法第199条)が成立するようにも思われます。
ただ本件においてはBさんによる暴行という事情が介在しているので、Aさんの行為とVさんの死亡結果との間に因果関係が認められるかが問題となります。
今回はどのように場合に因果関係が認められるかを説明していきます。
まず、本件でAさんは殺意をもってVさんの顔面を何度も殴打しているので殺人罪の実行に着手しているといえます。
ただ犯罪が成立するためには実行に着手しただけでは足りず、行為と結果の間に因果関係が必要とされます。
因果関係が認められないと未遂犯(刑法第43条)として扱われ、未遂犯として判断されると刑罰が減刑される可能性があります。
では、どのような場合に因果関係が認められるのでしょうか。
この点、行為と結果との間に「あれなければこれなし」という条件関係があるといえれば因果関係を認めるという考えもあります。
この考えを用いると、Aさんの暴行がなければVさんは死亡しなかったといえるので因果関係が肯定されます。
しかし、このような考えではあまりに広く因果関係の成立を認めることになってしまい妥当ではありません。
また、因果関係とは偶然起こる結果に対して責任を負わせることを排除して適正な帰責範囲を確定する概念をいいます。
本件でいうとBさんによる暴行という介在事情が存在している場合にも、AさんにVさんの死亡結果に対する責任を負わせることができるのかどうかが問題となります。
よって条件関係のみで因果関係を認めるのではなく、条件関係の存在を前提に行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に因果関係を認めると考えるべきです。
そして、行為の危険性が結果へと現実化したといえるかどうかは①行為の危険性②介在事情の寄与度③介在事情の異常性などを考慮して判断が下されます。
これを本件について見てみると、前述のとおりAさんの行為がなければVさんは死亡していなかったので条件関係は肯定される可能性が高いと考えられます。
そして、確かに自身が暴行を加えた後に通行人が被害者の腹部を蹴り上げることは予測できないものでその異常性は高いといえます(③)。
しかし、Bさんによる暴行はVさんの死期を数分早めたにすぎず結果への寄与度はそれほど高くありません(②)。
また、顔面を何度も殴打するというAさんの行為自体の危険性は高いといえます(①)。
と考えると、Aさんの行為の危険性が結果へと現実化したと認められると判断される可能性が高いです。
このように判断されると、Aさんの行為とVさんの死亡結果の因果関係が肯定されるのでAさんの行為には殺人罪が成立します。
~参考条文~
刑法第43条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
刑法第199条 人を殺した者は、死刑若しくは5年以上の懲役に処する。