埼玉県狭山市県 逮捕 窃盗の共犯
- 2020.05.20
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 さいたま支部
窃盗の共犯について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部が解説します。
埼玉県狭山市に住むAさんは、無職でお金に困っていました。そんな中、Aさんは数年ぶりにあった知人の男Bさんから、「空き巣に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」ともちかけられました。Aさんはどうしようか迷いましたが、お金に困っており、借金の返済にも追われていたことから、Bさんの誘いを「承諾」しました。犯行日当日、犯行場所で、AさんはBさんから「俺が中に入ってやるから、誰も来ないかどうか外で見張りをしていてくれ」と言われました。そして、Aさんは外で見張りをしていたところ、Bさんが被害者宅から貴金属を盗って戻ってきました。AさんとBさんは現場から逃走しましたが、後日、埼玉県狭山警察署に住居侵入、窃盗罪で逮捕されました。
(フィクションです)
~住居侵入罪、窃盗罪~
まず他人の家などに勝手に立ち入ると住居侵入罪(刑法130条前段)に問われます。
刑法130条前段
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、(略)た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
また、他人の物を盗った場合は窃盗罪(刑法235条)に問われます。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
しかし、今回実際に他人の家に立ち入り他人の物(貴金属)を盗ったのはBさんです。
では、なぜAさんも住居侵入、窃盗罪で逮捕されている、つまりBさんと同様、他人の家に立ち入り他人の物を盗った、という疑いがかけられているのでしょうか?感覚的にはBさんだけではなくAさんも処罰されなければ不公平だということはお分かりいただけると思います。
しかし、Aさんを処罰するためにはそれなりの理由付け(根拠)が必要です。法律上はどうなっているのでしょうか?
~刑法上の共同正犯~
この点、Aさんを処罰するための根拠は刑法60条に求められます。
刑法60条
2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
このように2人以上共同して犯罪を実行することを「共同正犯」といいます。
「正犯」あるいは正犯者とは、犯罪(基本的構成要件)に該当する行為(実行行為)を行う者、つまり今回でいえばBさんを指します。
しかし、正犯者だけ処罰したとしても、たとえば大組織犯罪では実際に犯罪に手を染めない黒幕を処罰できなくなってしまい、不当な結果を招きかねません。したがって、刑法60条は、
・意思の連絡(共謀)の下複数の者が関与した事案
において
・自己の犯罪を犯したと評価し得る重要な関与者
を正犯とし、他人(Bさん)の実行行為及び結果につき、共同して行えば全て帰責される(刑事責任を負わされる)という「一部行為の全部責任の原則」を認める規定だと解釈されています。
そうすると、実際に犯罪に手を染めていないAさんや大組織の黒幕もBさん同様処罰されることになります。
それでは、共同正犯が成立するためにはいかなる要件が必要なのでしょうか?言い換えれば、他人が行った行為及びそれによって作出された結果を仲間内である共犯者にも帰責させるための要件とはいかなるものなのでしょうか?
共同正犯が成立するためには、主観的要件としての「共同実行の意思(意思の連絡=共謀)」、客観的要件としての「共同実行の事実」が必要とされています。
共同実行の意思とは、共同して実行行為をしようという意思のことをいいます。共同加工の意思ともいわれます。共同実行の意思は、2人以上の行為者全員が相互に持たなければなりません。したがって、甲がVに暴行を加えている間、甲の知らない間に乙がVの財布を盗んだという場合、窃盗罪(あるいは暴行罪)の共同正犯は成立しません。共同実行の事実とは、共謀した行為者が実行行為を分担することであり、共同加功とか行為の分担ともいわれています。
~本件への当てはめ~
では、上記要件を本件に当てはめてみましょう。
まず、「共同実行の意思」ですが、AさんはBさんから「空き巣に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」ともちかけられ、Aさんはそれに対し「承諾」しています。Bさんの誘いは要は、住居侵入罪あるいは邸宅侵入罪及び窃盗罪の誘いで、相互に意思連絡があると認められます。ですから「共同実行の意思」の要件は満たします。
次に、「共同実行の事実」ですが、本件の実行行為を行っているのはBさんです。しかし、上記でご説明したとおり、実行行為を分担していなくても共同正犯の成立を認めるのが現在の実務です。しかも、Aさんは、現場周辺で見張りをしています。したが
って、「共同実行の事実」の要件も満たしそうです。