福岡県糸島市 逮捕 暴行罪と傷害罪
- 2020.06.26
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 福岡支部
暴行罪と傷害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県糸島市に住むAさんは筑前前原駅付近に住んでいるVさんと仲が悪かったため、Vさんになにか嫌がらせをしてやろうと考えました。
ただVさんは武術の心得があったため、直接対峙すると反撃されてしまうと考えたAさんは間接的な方法をとる計画を立てました。
その計画とは夜間にVさん宅の近くから、その家に向かって大音量でラジオやアラームを流すというものでした。
そしてAさんがこのような行為を数カ月ほど続けた結果、Vさんは体調が悪くなり病院に行くと慢性頭痛症と診断されました。
このような場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~傷害罪~
本件でAさんの行為によってVさんは慢性頭痛症を負っているところ、Aさんの行為には傷害罪(刑法204条)が成立すると考えられます。
ただ本件でAさんは殴る蹴る等の直接的な力の行使を行っていないのですが、このような場合にも傷害罪の成立を認めてもいいのでしょうか。
直接力を加えて怪我をさせていないので暴行罪(刑法208)条の成立を認めた方がいいようにも思われます。
今回は傷害罪がどのような場合に成立するのかを検討していきます。
最初に、傷害罪は刑法の条文で以下のように定められています。
刑法204条 「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
暴行罪と比べてもわかるように、傷害罪の成立を検討する際には「傷害」結果が生じているかどうか重要な点となります。
そして、この条文における「傷害」とは人の生理的機能を害することを言うと考えるのが一般的です。
本件と似た過去の判例(最決平成17年3月29日)では慢性頭痛症や睡眠障害等を負わせた行為についても「傷害」が認められると判断されました。
この判例の考えを用いると本件でも「傷害」が認められる可能性が高いです。
また刑法204条ではその手段についての限定はないので、直接物理的な力を加える場合(殴る・蹴る等)だけでなく本件のような方法も傷害の手段として認められると考えられます。
このように考えるとAさんの行為には傷害罪が成立するとも思われます。
ただ刑法で罪が成立するには罪を犯す意思、つまり故意(刑法38条1項)が必要とされています。
本件Aさんはラジオを大音量で流して嫌がらせをすることについての認識があるものの、Vさんが傷害結果を負うことについて確定的な認識があるとまではいえません。
このような場合でも、傷害罪の故意は認められるのでしょうか。
これについて騒音を発する行為はそれを受けた者にとって大きな精神的負担となり、それが継続されればそのストレスによって様々な症状が生じることは社会通念上顕著であると考えられます。
そして、そのような危険を含む行為を行う者は身体に上記障害が生じる可能性を認識しながらかかる行為に及んでいると思われます。
とすると上記行為に及んだ者は傷害結果が発生することを認容していたと考えるのが妥当です。
そして、傷害結果が生じることについて認容していることを未必の故意があるというのですが、未必の故意が認められる場合には確定的に結果発生を認識していなくとも故意が認められると考えられています。
このように考えると、本件AさんもVさんが傷害結果を負うことについて未必の故意を有しているので傷害罪の故意が認められる可能性が高いです。
以上より、Aさんの行為には傷害罪が成立すると思われます。
~参考条文~
刑法38条1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律の特別の規定がある場合は、この限りでない。
刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。