北海道千歳市　逮捕　事後強盗未遂罪

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所　札幌支部

事後強盗未遂罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部が解説します。

北海道千歳市に住むＡさんは投資に失敗し借金２００万円くらいまで膨らませて生活に困っていました。そこで、何とかこの事態を打開したいと考え、Ａさん日頃から目を付けていたＶさん（８５歳）方に盗みに入ることに決めました。そこで、Ａさんはホームセンターで侵入工具（マイナスドライバー、軍手、バール等）を購入しました。そして、Ａさんは、Ｖさんが不在のときを見計らってＶさん方に入り、タンスの引出しを開けるなどの物色を始めました。ところが、Ａさんは、数十分経っても金目の物を見つけることができませんでした。そこで、ＡさんはＶさん方を出ようとしたところ、ちょうどＶさんを訪ねてきたＶさんの息子であるＷさん（６０歳）と鉢合わせになりました。Ａさんは、Ｗさんから声をかけられ捕まられそうになったため、Ｗさんの顔を持ってきていたバールで１回殴打してその場から逃走しました（Ｗさんに怪我はなし）。しかし、Ａさんは、北海道千歳警察署に住居侵入、事後強盗未遂罪で逮捕されてしまいました。
（フィクションです。）

～　事後強盗罪とは？　～

今回、Ａさんに疑いがかけられている事後強盗未遂罪とはどんな罪なのでしょうか？
事後強盗罪とは、窃盗犯人が財物の取返しを防いだり、逮捕を免れるなどするため、相手方に暴行、脅迫を加えた場合に成立し得る犯罪で、刑法２３８条に規定されています。

刑法２３８条
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

本来の強盗罪（刑法２３６条）とは、

相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫→財物奪取（強取）

という流れが本来の姿です。
しかし、窃盗の場面では、財物を取り返しにきたり、窃盗犯人を逮捕しようとする被害者等に窃盗犯人が暴行を加えるという場面はしばしばあるところです。しかも、暴行・脅迫行為は事後的に行われているものの、それを手段として結果的に財物を奪ったという点では本来の強盗罪と変わりはありません。そこで、事後強盗罪も強盗罪の一種としています。事後強盗罪の「事後」とは、窃盗の後に暴行、脅迫が行われたという意味に過ぎず、本質は本来の強盗罪と同じです。

刑法２３６条１項
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、５年以上の有期懲役に処する。

～　誰が罪に問われるの？　～

刑法２３８条は「窃盗が」としていることから「窃盗犯人」です。
ただ、この「窃盗」とは、窃盗の既遂犯のみならず、窃盗の未遂犯も含まれます。

～　暴行・脅迫の相手方は誰？　～

暴行・脅迫の相手方は、必ずしも被害者本人（本件ではＶさん）である必要はありません。
追跡してくる目撃者（Ｗさん）や逮捕しようとする警察官に対してなされたものであってもよいとされています。
ただ、事後強盗罪は強盗罪の一種ですから、暴行・脅迫は「窃盗の機会」になされる必要があります。
窃盗の機会かどうかは、窃盗と暴行・脅迫との時間的、場所的関係などから判断されます。

～　事後強盗罪の既遂、未遂の判断は？　～

事後強盗罪の既遂時期に関しては、窃盗の既遂・未遂を問わず、犯人が所定の目的で暴行・脅迫を加えた時点で既遂に達すると解する見解もありますが、通説・判例は、本罪は財産犯であることから、

先行行為である窃盗の既遂、未遂

で、事後強盗罪の既遂、未遂を判断しています。
この点、Ａさんは物色行為を行っているのみで実際に物は奪っていませんから、窃盗未遂犯です。
したがって、Ａさんに事後強盗未遂罪が成立しています。

～　相手方に怪我を負わせたり、死亡させた場合は？　～

強盗の機会に相手方に怪我を負わせたり、死亡させた場合は強盗致傷罪（６年以上の懲役）、強盗致死罪（死刑又は無期懲役）に問われます。そして、両罪は、窃盗の既遂、未遂に関係なく成立します。仮に、本件のＡさんがＷさんに怪我を負わせていれば、強盗致傷罪に問われていたかもしれません。