神戸市灘区で逮捕 脅迫事件
- 2019.10.20
- コラム
あいち刑事事件総合法律事務所 神戸支部
神戸市東灘区内のアパートに住むAさんは、Vさんから、過去にVさんに暴行を振るった件でVさんから東灘警察署に被害届を提出されことの腹いせに、Vさん宛てに「よくも被害届を出してくれたな」「お前が被害届を出したおかげで、俺は数か月間、臭い飯を食わされた」「今度こそお前を痛い目に遭わせてやるからな」などと記載した手紙を送りました。すると、Aさんは脅迫罪で逮捕されてしまいました。Vさんが再び東灘警察署に相談し、被害届を提出したようです。
(事実を基にしたフィクションです。)
~ 脅迫罪 ~
脅迫罪は刑法222条に規定されています。
1項、生命、身体、自由、名誉、又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し外を加える旨を告知して人を脅迫した場合も、前項と同様とする。
人に対して害を加える旨の告知(害悪の告知)が「脅迫」です。
害悪の告知は、一般に人を畏怖させる(怖がらせる)程度のものでなければなりません。したがって、単なる警告、いやがらせ、威迫は、害悪の告知ではありませんから「脅迫」には当たりません。また、実際に実現可能なものである必要があります。「明日、お前の家に隕石が落ちてくるからな!」と脅しても「脅迫」には当たりません。
生命に対する害悪の告知、「殺す」、「家ごと焼いてやる」などに代表される殺害予告がこれにあたります。身体に対する害悪の告知は、「痛い目に遭うぞ」などという暴力を予感させるもの、自由に対する害悪の告知は、「監禁する」、「自宅周辺を監視する」など人の行動を制限を予感させるもの、名誉に対する害悪の告知は、「不倫したこと、罪を犯したことをネットに上げる」など、人が知られたくない事柄をばらすことを予感させるもの、財産に対する害悪の告知は、先ほどの「家ごと焼いてやる」もこれに当たるほか「車を壊す、焼く」など、財産に対して害を加えることを予感させるものをいいます。
「脅迫」の相手方は、被害者本人又はその親族であることが必要です。
したがって、「お前の親父を殺す」などと脅せば「脅迫」に当たりますが、「お前の彼女を殺してやる」などと脅しても「脅迫」には当たりません。
~ 強要罪との違い ~
脅迫罪と似てる罪として強要罪があります。
強要罪は脅迫罪の次の刑法223条に規定されています。
1項 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下 の懲役に処する。
2項 親族の生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
強要罪でも「害悪の告知」が必要とされています。ただし、強要罪は、
結果として相手方に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したことが必要
という点で脅迫罪と大きく異なります。
たとえば、上の事例で、Vさんが引っ越しを余儀なくされて引っ越しした、という場合は強要罪に問われる可能性があります(その場合は、「脅迫」(あるいは暴行)と結果(引っ越しを余儀なくされた)との間に因果関係が存在すること、つまり、脅迫(あるいは暴行)により、相手方が畏怖を感じ、その結果として相手方に何らかの行動に出させた、出させなかった、という関係が存在することが必要です)。
これからすると、強要罪の「脅迫」は、相手に一定の行動に出させること、あるいは出させない程度に強いものであることが必要です。
その他に大きな違いとしては、罰則です。
脅迫罪は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金で、強要罪は3年以下の懲役です。つまり、強要罪には罰金刑が設けられていません。つまり、強要罪で起訴されると必ず正式裁判を受ける必要があります。裁判で有罪となれば、刑務所に服役しなければならなくなる場合もあります。
最近では、常磐自動車道で「あおり運転」をした男性が、強要罪で再逮捕されたことが話題となっています。
仮に、起訴された場合、裁判所がどんな事実認定をし、いかなる罪を適用し、どの程度の量刑をくだすのか注目されます。