大阪 無料相談 放火事件
- 2022.11.19
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部
放火事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。
大阪市に住むAさんは自身の所有する物置小屋の管理が面倒になり、それを燃やすために小屋の周りにガソリンをまいて火をつけました。
Aさんは周囲になにかしらの迷惑をかけるかもしれないと思っていましたが、周囲に火が燃え移るとは考えていませんでした。
しかし当日風が強かったため物置小屋の火が燃え上がり、近くに停めてあったVさんの車のドアが1メートルほど燃えてしまいました。
このような場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~非現住建造物放火罪~
まずAさんは自身が所有する小屋を燃やしているので、非現住建造物放火罪(109条2項)が成立すると考えられます。
ただ刑法で自己所有の非現住建造物放火罪が成立するには「公共の危険」が発生している必要があります。
では、本件で「公共の危険」が生じているといえるのでしょうか。
ここで「公共の危険」がどのような場合に認められるのかが問題となります。
これについて「公共の危険」を周囲の建造物に延焼する危険と考えると、本件では近くに停めてあった車が燃焼しているだけなので「公共の危険」は発生していないとも思えます。
もっとも最決昭和59年4月12日では、本件と同じように乗用車が燃焼した場合にも「公共の発生」を認めています。
この判例を基に考えると「公共の危険」とは、建造物への延焼の危険に限らず不特定又は多数の人の生命、身体又は財産に対する危険も含まれると考えられます。
そうだとすると、近くに停めてあった車のドアが1メートルほど燃えてしまっている本件でもVさんの財産に対する危険が生じているといえるので「公共の危険」の発生が認められる可能性が高いです。
~「公共の危険」についての認識~
ただ本件でAさんは火が燃え移ることを予想しておらず、「公共の危険」が発生することについての認識がありません。
このような場合にも、非現住建造物放火罪の成立を認めてもよいのでしょうか。
同罪の成立に「公共の危険」の認識が必要かどうか問題となります。
これについて過去の判例(最判昭和60年3月28日)では「公共の危険」の発生についての認識がなくとも、同じく「公共の危険」が条文で定められている建造物等以外放火罪の成立を認めています。
したがって、この判例の考えによると本件においても問題なく非現住建造物放火罪に成立が認められるようにも思われます。
しかし自分が所有する物を燃やすこと自体は適法であり、「公共の危険」が発生して初めてこのような行為が違法と判断されます。
そうだとすると「公共の危険」は非現住建造物放火罪の成立を構成する要素ということができ、同罪が成立するにはこの重要な要素についての認識が必要であるとも考えられます。
これを本件について見てみると、本件でAさんは火が燃え移ることについての認識はありませんが周囲に何かしらの迷惑をかけるかもしれないとは思っています。
したがって、Aさんは延焼の可能性についての認識はないとしても「公共の危険」が発生することについての認識はあると判断される可能性が高いです。
以上より「公共の危険」の発生の認識についてどちらの見解をとったとしても、本件Aさんには非現住建造物放火罪が成立すると思われます。
~条文~
刑法109条1項 「放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する。
2項 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。」
110条1項 「放火して、前2条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の懲役に処する。」