仙台市宮城野区 無料相談 傷害罪の自招侵害(正当防衛)
- 2020.04.18
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 仙台支部
自招防衛について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。
仙台市宮城野区に住むAさんは友人Vさんと自宅で過ごしているときに「お前は本当に何もできない役立たずだよな。」とからかったところ、Vさんはその一言に激怒して持っていたバットでAさんを殴ろうとしてきました。
そこでAさんは自身の身を守るためにVさんの胸を突き飛ばし、その結果Vさんに全治数週間の怪我を負わせてしまいました。
このような場合Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~正当防衛~
本件でAさんはVさんを突き飛ばし怪我をさせているので、このような行為は傷害罪(刑法204条)にあたる可能性が高いです。
ただAさんの行為はVさんの暴行から身を守るためになされているところ、正当防衛(刑法36条1項)が成立しないか問題となります。
今回は自ら侵害を招いた場合においても正当防衛が成立するのかを検討していきます。
まず、本件において正当防衛の要件をみたしているかどうかが問題となります。
前回のブログで説明したように、正当防衛が成立するには①「急迫不正の侵害」②「防衛の意思」③「やむを得ずにした行為」であることが必要であると考えられています。
これを本件について見てみると、バットで殴るという行為は相手に致傷結果を生じさせる恐れを十分に有するものです。
とするとAさんの生命・身体に対する危険が現に存在しているといえるので、Vさんの行為は「急迫不正の侵害」であると判断される可能性が高いです(①)。
また、Aさんの行為は自身の身を守るための行動であったといえます(②)。
そして確かに結果的にAさんはVさんに怪我を負わせていますが、バットで殴りかかってくる相手に素手で抵抗するという手段は防衛手段として必要であり相当なものといえます(③)。
以上より、Aさんには正当防衛が成立するようにも思われます。
ただし、本件のVさんの暴行はAさんが「お前は本当に何もできない役立たずだよな。」とからかったことが原因となっています。
このように自ら侵害を招いた者にも正当防衛の成立を認めてもよいのでしょうか。
これについては形式的には正当防衛の要件を満たしていても、防衛手段が社会的相当性を欠く場合には正当防衛を認めるべきではないと考えるのが一般的です。
具体的には①故意に相手を挑発して正当防衛の状況を招いた場合には防衛行為は社会的相当性に欠けるが、②過失により正当防衛の状況を招いた場合、また故意に相手を挑発し正当防衛の状況を招いた場合であっても相手の反撃が予期されるようなものではない場合には防衛行為は社会的相当性に欠けることはないとされます。
これを本問について見てみると、AさんはVさんをからかうつもりで「お前は本当に何もできない役立たずだよな。」と発言しているのでこのような行為は故意に相手を挑発していると認められる可能性が高いです。
しかしAさんのその発言に対する反撃としてはせいぜい殴り返す程度の暴行が予想されるにとどまり、Aさんの死傷結果が発生するおそれを有するバットで殴りかかってくるという行為は予想される反撃を大きく超える危険なものです。
とするとAさんは確かに故意に相手を挑発して正当防衛の状況を招いていますが、Vさんの反撃は予期されるものではないのでAさんの防衛行為は社会的相当性に欠けることはないと考えられます(②)。
このように判断されると、Aさんには正当防衛が成立します。
~参考条文~
刑法36条1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
刑法204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。