東京小金井市 無料相談 親族間での窃盗事件
- 2022.09.20
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所八王子支部
親族間の窃盗罪について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所八王子支部
小金井市に住むAさんはギャンブルでお金を浪費してしまったため、別居中の実家にある金目の物を売って自分の生活費にしようと考えました。
そこでAさんは両親が不在の時を見計らって、もともと持っていた合鍵で実家に侵入し、リビングに置いてあった腕時計を自身の鞄に入れて逃げ出しました。
Aさんはその腕時計を母親の物だと思って盗んだのですが、実際には母親の友人VさんがAさんの母親に預けていた物でした。
このような場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~住居侵入罪~
まずAさんは両親が不在の時を見計らって実家に侵入していますが、この行為に住居侵入罪(刑法130条前段)は成立するのでしょうか。
刑法130条 「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」
本件でAさんが侵入しているのは実家であり、合鍵を使ってその家に入っているので、このようなAさん行為には住居侵入罪が成立しないようにも思えます。
ここで同罪における「侵入」の意義が問題となります。
これについて、「侵入」を住居の平穏を害するような方法による立ち入りのことをいうとする考えもあります。
この考えによると、ドアや窓を壊したりするのではなく合鍵で自宅に侵入をしているAさんの行為は住居の平穏を害しておらず、「侵入」にあたらないとも思われます。
もっとも過去の判例(最判昭58年4月8日)で、「侵入」とは管理権者の意思に反する立ち入りをいうと述べられています。
本件でAさんは窃盗目的で自宅に忍び込んでいるので、このような行為は自宅の管理権者であるAさんの両親が望むような立ち入りではないといえます。
したがって上記判例に考えによると、Aさんの行為は管理権者の意思に反する立ち入りといえ、「侵入」にあたると判断される可能性が高いです。
以上より、Aさんの行為には住居侵入罪が侵入すると考えられます。
~窃盗罪における親族相盗例~
次に、Aさんが自宅に置いてあった腕時計を自身の鞄に入れて逃げ出した行為には窃盗罪(刑法235条)が成立すると考えられます。
刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
ただ窃盗罪においては親族間の犯罪に関する特例(刑法244条1項)というものが定められており、これは簡単に言うと一定の親族間で窃盗等の罪を犯した場合にはその刑が免除されるというものです。
刑法244条1項 「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。」
刑法235条の2 「他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の懲役に処する。」
本件でAさんは腕時計を母親の物だと思って窃盗を行っているところ、同項の適用によりAさんは刑が免除されるようにも思われます。
もっとも過去の判例(最決平成6年7月19日)では、同項が適用されるには窃盗犯人と財物の占有者・所有者の両方との間に親族関係が必要であると述べられました。
本件では確かに腕時計を占有しているのはAさんの母親でありますが、その所有者は母親の友人Vさんであり、Aさんと腕時計の所有者Vさんとの間に親族関係はありません。
したがって上記判例の考えを用いると、本件では同項が適用されません。
以上より、Aさんの行為には窃盗罪が成立すると考えられます。
~牽連犯(けんれんぱん)~
そしてAさんの行為には住居侵入罪と窃盗罪が成立する場合、両罪が牽連犯(けんれんぱん、刑法54条1項後段)にならないかが問題となります。
刑法54条1項 「1個の行為が2個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。」
牽連犯(けんれんぱん)とは簡単に言うと、一つの犯罪行為が別の犯罪を達成するための手段又は結果になっている場合をいいます。
例えば人を騙して財物を取るために文書を偽造した場合には詐欺罪(刑法246条1項)と私文書偽造罪(刑法159条1項)等が成立し得ますが、これらは牽連犯(けんれんぱん)となる可能性が高いです。
牽連犯(けんれんぱん)となると、そのうちの最も重い刑により処断されます。
本件でもAさんは窃盗を行うために住居侵入を行っているので、両罪は牽連犯(けんれんぱん)となると考えられます。
刑法の条文で窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、住居侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」と定められており、窃盗罪の方が重い刑罰が定められています。
以上よりAさんに成立する住居侵入罪と窃盗罪が牽連犯(けんれんぱん)となると、Aさんはより重い窃盗罪の法定刑の範囲で刑罰が下されます。
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