東京港区 逮捕 器物損壊事件
- 2021.09.10
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
器物損壊事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
大学3年生のDは友人関係のトラブルから、同じサークルに所属するAを恨んでいたところ、部室にAの水筒が置き去りにされているのを見付けた。Dは、「あいつの水筒か。嫌がらせをしてやろう。」と思い、Aの水筒の中に、自己の尿を混入させ、部室を出た。Dが部室を出た直後、Aが水筒を取りに部室へ戻った。Aは、部室から勢いよくDが出て行ったため、何かあったのかと思ったが、水筒を手にしてそのまま自宅へ戻った。Aは帰宅後、水筒を洗うため蓋を開けた際、尿の臭いがしたため、Dもしくは何者かに嫌がらせをされたと思い、高輪警察署に被害届を出した。その後、高輪警察の捜査により、Dは逮捕された。
この場合、Dは何の罪に問われるでしょうか。
*フィクションです。
・器物損壊罪の成否
一般的に器物損壊罪といえば、物を壊した際に成立する犯罪であると思う方が多いと思いますが、実は、器物損壊罪はそれ以外にも成立する可能性があります。今回のケースでは、被害者の水筒の中に尿を入れた場合です。この場合、器物損壊罪が成立するのか、以下検討します。器物損壊罪については、刑法261条に記されています。
第261条(器物損壊等)
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
犯罪が成立するには、「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるので、構成要件に該当するか、から検討します。
第一に、「前3条に規定するもののほか」ですが、これは本条の客体が、刑法258条~260条に規定されているもの以外であることをいいます。258,259条では文書を、260条では建造物又は艦船を客体としているので、それ以外である場合、本条の客体に該当します。今回のケースでは、水筒なので、「前3条に規定するもののほか」に該当します。
第二に、「他人の物を損壊し、又は傷害した者」ですが、「損壊」「傷害」いずれも、「その物の効用を害する一切の行為」をいい、客体が動物である場合が「傷害」です。これは、物を物理的に破壊するものでなくてもよいということです。判例では、食器に放尿した場合(大判明42・4・16)、養魚池の鯉を流出させた場合(大判明44・2・27)などが器物の損壊にあたると判示しています。今回のケースでは、DはAの水筒に嫌がらせ目的で、自己の尿を混入させました。一般的に、水筒に他人の尿を入れられた場合、その水筒を積極的に使用しようと考えず、また、場合によってはその水筒を捨てることも少なくないと思われます。よって、かかる行為は水筒の効用を害しているため、Dは「他人の物を損壊し…た者」に該当します。
次に、違法性と責任ですが、違法性に関しては正当防衛(36条1項)などに該当するような事実はなく、責任に関してもDは心神喪失者等でないので、以上見てきたことをまとめるとDの行為に器物損壊罪(261条)が成立するといえそうです。
・刑罰について
では成立したとしてどのような刑罰が科せられるでしょうか。本条では、「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と書かれています。よって、期間に関しては「1月以上3年以下」、罰金が科せられる場合には「1万円以上30万円以下」となります。科料については「1000円以上1万円未満」と決められています。
・まとめ
よって、Dの行為は器物損壊罪(261条)にあたり、「1月以上3年以下」の懲役又は「1万円以上30万円以下」の罰金若しくは科料が科せられるということになります。
刑に関しては、初犯か、前科を持っているか、などによって変わります。
高輪警察署 東京都港区高輪3丁目15-20 03-3440-0110
#20歳に満たない者だと少年事件になります。