東京渋谷 逮捕 覚醒剤の捜索差押
- 2021.10.15
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
覚醒剤の捜索差押について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
東京都渋谷区に住むAさんは過去に覚醒剤取締法違反で処罰されたことがあるのですが、再度覚醒剤を所持しているのではないかとして覚醒剤取締法違反の被疑者となっています。
渋谷警察署の警察官KさんはAさんが住むマンションの一室に対する捜索差押許可状の発布を受け同宅に赴き、「宅配の者ですが、ドアを開けていただいてもよろしいでしょうか。」と声をかけたのですが、Aさんがドアを開けなかったため、大家さんに合鍵を借りて部屋に入りました。
その後,渋谷警察の警察官KさんはAさんに捜索差押許可状を呈示して同室内を捜索した結果、覚醒剤が入ったビニール袋を数袋見つけたのでこれを差押え、Aさんを覚醒剤所持の容疑で現行犯逮捕しました。
このような渋谷警察の警察官Kさんの行為は適法といえるのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~必要な処分~
まず本件でKさんは捜索目的であることを告げずに合鍵を用いてAさん宅に立ち入っていますが、かかる捜査は適法といえるのでしょうか。
刑事訴訟法では令状の執行のために「必要な処分」をすることができると定められているところ、Kさんの行為が「必要な処分」にあたるかが問題となります(刑事訴訟法222条1項、111条1項)。
刑事訴訟法111条1項 「差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。」
これについて、「必要な処分」とは①執行の目的を達成するために必要であり②社会的に相当な手段で行われるものをいうと考えられています。
そして、その「必要な処分」については「執行を円滑、適正に行うために、執行に接着した時点において、執行に必要不可欠な事前の行為」も含まれると述べられました(大阪高判平成6年4月20日)。
これを本件について見てみると覚醒剤等の薬物犯罪はごく短時間で証拠隠滅が可能であることに加え、捜索に拒否的態度がとられる場合も多いです。
そしてAさんは覚醒剤事犯の前科もあるので、覚醒剤を洗面所に流すといった方法により証拠物を破棄隠匿するおそれが高いと考えられます。
そうだとすると本件においては令状の執行を受けるAさんに証拠隠滅の隙を与えず捜索差押えの実効性を確保するため、Kさんは上記行為をとる必要があったと認められる可能性が高いです(①)。
またKさんは合鍵を用いてAさん宅に立ち入っており、鍵や窓を壊す等していないので、かかるKさんの立ち入りは社会的に相当な手段で行われたといえます(②)。
そして捜索場所への入室は捜索差押えの執行に必要不可欠な行為であるところ、Kさんの行為は「必要な処分」として認められると考えられます。
~令状呈示前の捜索~
次に本件でKさんは令状を呈示する前に上記行為を行っていますが、このようなKさんの行為は適法といえるのでしょうか。
令状呈示前の捜索が刑事訴訟法110条に反しないかが問題となります。
刑事訴訟法110条 「差押状、記録命令付差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない。」
これについて刑事訴訟法110条はただ令状を「処分を受ける者にこれを示さなければならない」と定めているだけであって、執行前に令状を呈示しなければならないと定めているわけではないので、たとえ事前に令状を呈示していなくとも同条には反しないとも思われます。
もっとも令状の呈示を定める同条の趣旨は手続きの公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮する点にあります。
そうだとすると令状の執行に着手する前に令状の呈示をすることが原則であり、捜索差押えの実効性を確保すためにやむを得ない場合に例外的に事後の令状呈示も認められると考えるべきです。
過去の判例(最決平成14年10月4日)でも同様の判断が下されました。
これを本件について見てみると前述のように覚醒剤等の薬物犯罪はごく短時間で証拠隠滅が可能であるので、事前に令状を呈示していたのであればAさんにより覚醒剤が破棄される恐れがあったといえます。
またKさんは入室後すぐに令状を呈示しているところ、かかるKさんの行為は相当性が認められると考えられます。
したがって、本件は捜索差押えの実効性を確保すためにやむを得ない場合であったと認められる可能性が高いです。
このように判断されると、本件Kさんの行為は適法となります。
~参考条文~
覚醒剤取締法41条の3第1項 「次の各号の一に該当する者は、10年以下の懲役に処する。
一 第19条(使用の禁止)の規定に違反した者」
渋谷警察署 東京都渋谷区渋谷3丁目8-15 03-3498-0110