東京新宿 逮捕 犯人隠避
- 2022.03.25
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
犯人隠避について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
2022年1月11日、新宿区在住のXは、Yから電話で「昨日仕事で同僚のZとトラブルを起こしたんだけど、Zの態度が気にいらなかったから、夜道を一人で歩いているZの頭部を後ろからバッドで殴ってしまったんだ。その後、Zが倒れて動けなくなったのを見たら急に怖くなってその場から逃げ出したんだ。」「俺は執行猶予中だから、逮捕されたらまずいんだ。」「だから俺の代わりに警察に行ってくれないか。」と伝えられた。Xは、昔Yにお世話になっていたことから「分かりました。Yさんの頼みですもんね。」と言い、すぐさま原宿警察署に行き、自分が犯人である旨警察官に話した。その後捜査を進めていく中で、犯人はXではなくYであることが発覚した。なお、Zは頭部外傷を負ったものの命に別状はなかった。
この場合、Xは何の罪に問われるでしょうか。また、YがXに身代わりを依頼した行為は罪に問われるのでしょうか。
・犯人隠避罪の成否
捜査機関にとって犯人の供述は事件解決のために重要な役割を果たしており、虚偽の供述をしていた場合には捜査機関は大きく撹乱されます。今回のケースでは、傷害事件を起こしてしまった犯人の身代わりをした場合です。この場合、どのような罪が成立するのか、以下検討します。今回問題となる犯人隠避罪は刑法103条に記されています。
第103条
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
犯罪が成立するには、「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるので、構成要件に該当するか、から検討します。
第一に、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を」です。「罰金以上の刑に当たる罪」とは、法定刑が罰金以上の刑を含む罪をいい、拘留・科料が罰金以上の刑と併せて規定されている罪を含みます。「罪を犯した者」とは、真犯人に限らず、犯罪嫌疑に基づいて捜査又は訴追されている者を含むとされているのが判例の立場です(最判昭24・8・9)。また、「罪を犯した者」には死者も含まれるとされています。判例では、酒気帯び運転をしていたAが起こした事故によりAが亡くなった際、同乗していた甲が、Aが酒気帯び運転をしていたことを警察に発覚されぬよう警察に虚偽の事実を述べた事案において、「『罪を犯した者』には死者も含む。」と判示しています(札幌高判平17・8・18)。「拘禁中に逃走した者」とは、法令により拘禁されている間に逃走した者をいいます。例えば、現行犯逮捕されている者などが挙げられます。今回のケースでは、YはZに頭部外傷を負わせているため、かかる行為は傷害罪(204条)に当たり、204条は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と書かれているため、罰金以上の刑に当たります。よって、Yは「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に該当します。
第二に、「蔵匿し、又は隠避させた者」です。「蔵匿」とは、「官憲による発見・逮捕を免れるべき場所を提供し、かくまうこと」をいいます。「隠避」とは、「蔵匿以外の方法で官憲による発見・逮捕を妨げる一切の行為」をいいます。「隠避」の例としては、犯人に逃走資金を渡す、身代わり犯人を立てる、捜査の進展状況を犯人に教え便宜を図る、逮捕義務のある者が逮捕を怠り逃走を許す等が挙げられます。今回のケースでは、Xは自分が犯人である旨警察官に話しましたが、これは身代わり犯人を立てる行為であるので、官憲による発見・逮捕を免れさせる行為といえます。よって、Xは「隠避した者」に該当します。
次に、違法性と責任ですが、違法性に関しては正当防衛(刑法36条1項)などの事実はなく、責任に関してもXは心神喪失者等でないので、以上見てきたことをまとめるとXの行為に犯人隠避罪(103条)が成立するといえそうです。
・Yの罪責
YがZをバッドで殴った行為に傷害罪が成立しますが、Xに身代わりを依頼した行為には何かしらの罪が成立するでしょうか。この場合、Yには犯人隠避罪の教唆犯が成立するというのが一般的です。判例でも、「犯人による自己蔵匿・隠避の教唆は、防御の濫用に属し、法律の放任行為として干渉しない防御の範囲を逸脱したもの」として教唆犯を肯定しています(大判昭8・10・18)。教唆犯とは、刑法61条1項に記されています。
第61条(教唆)
1 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
「教唆」とは、その名の通り、他人を教え唆すことで犯罪実行の決意を生じさせ、その決意に基づいて犯罪を実行させることです。今回のケースでは、YがXに対して「俺の代わりに警察に行ってくれないか。」と伝えることでXを唆し、その結果Xは自分が犯人である旨警察官に話しました。よって、YはXという「人を教唆して」犯人隠避罪という「犯罪を実行させた」と言えるので、犯人隠避罪の教唆犯が成立するということになります。
・刑罰について
では、成立したとしてどのような刑罰が科せられるでしょうか。本条では「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」と書かれています。よって、期間については「1月以上3年以下」、罰金が科せられる場合は「1万円以上30万円以下」となります。Yの教唆行為についても同様です。
・まとめ
よって、Xの行為は犯人隠避罪(103条)にあたり、刑罰については「1月以上3年以下」の懲役、又は「1万円以上30万円以下」の罰金が科せられるということになります。一方、Yの行為は犯人隠避罪の教唆(103条、60条)にあたり、刑罰については「1月以上3年以下」の懲役、又は「1万円以上30万円以下」の罰金が科せられるということになります。刑に関しては、前科の有無、情状酌量の余地の有無等によって変わります。
牛込警察署 〒162-0854 東京都新宿区南山伏町1-15 TEL:03-3269-0110