東京都江戸川区 逮捕 高齢者の万引き
- 2019.12.05
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部が解説します。
高齢男性のAさん(76歳)は、東京都江戸川区内で妻と二人暮らしをしていましたが、10年前に妻を癌で亡くし、それから近所との付き合いもなく一人暮らしを続けていました。そして、Aさん自身も、5年ほど前から心臓病を患って仕事を続けることが困難となり、仕事を辞めた後は生活保護を受給して生活していました。
そして、今から2年ほど前、Aさんはスーパーで買い物をした際、お酒(販売価格800円相当)を万引きした窃盗罪で逮捕され、その後、罰金20万円の略式命令を受けました。罰金はAさんの親族が立て替えました。ところが、今回Aさんは、また同じスーパーで万引きしたとして警視庁小岩警察署に窃盗罪で逮捕されました。
Aさんは取調べで、「万引き目的でスーパーに行くわけではない。」「何となく万引きをしてしまった。」などと話す一方、「日頃から孤独を感じていた。」「そんな孤独を紛らわせたかったのかもしれない。」などと話しています。
(フィクションです。)
~ はじめに ~
平成30年度版犯罪白書(以下、犯罪白書といいます)によると、平成29年度に刑法犯で検挙された高齢者(65歳以上の者)の数は
4万6264人
で、平成10年の1万3739人から約3.4倍増加しています。
そして、罪名別にみると、
窃盗罪
で検挙された高齢者が圧倒的に多いことが分かっています。
また、高齢女性の万引きの割合が高いことが目を引きます。犯罪白書によれば、
65歳から69歳 86.7%(うち万引きが69.5%、万引き以外が17.2%)
70歳以上 93.1%(うち万引きが82.5%、万引き以外が10.6%)
が窃盗罪を占めており、特に、70歳以上の女性高齢者については、
82.5%
が万引きを占めています。
~ 高齢者犯罪が増える背景 ~
高齢者犯罪が増える背景には様々な要因があると思いますが、犯罪白書では、
①日本人の総人口に占める高齢者の割合が増えたこと
②高齢者が社会的に孤立しているこ
が指摘されています。
①は自然的現象ともいうべきであって如何ともしがたいことです。
他方で、②の方が深刻な問題です。
高齢者となれば、子育てが一段落し、仕事を引退する方も多いでしょう。また、体力的には衰え行動範囲は若いころに比べると狭くなるとも考えられます。
そうすると、社会の接点がなくなり、社会的に孤立する高齢者の方も多くなります。
Aさんもご近所との付き合いがなく孤立した生活を送られていたようです。
最近は、万引きする動機を「お金がなかった。」「物が欲しかった。」という理由で万引きする高齢者もいる一方で、Aさんのように「孤独を紛らわせたかった。」などと万引きとは直接関係のない動機から万引きを行う高齢者も増えているようです。
~ 重要視される入口支援、出口支援 ~
こうしたことから、高齢者の再犯防止や再犯防止に向けた高齢者と社会とを繋げる取組みが行われています。
それが入口支援と出口支援です。
入口支援とは、検察庁、弁護士、保護観察所、地域定着支援センターなどが連携して逮捕、勾留された人の釈放後の生活を支援する制度です。
起訴猶予(不起訴処分)や執行猶予付き判決を受けることが見込まれる人が対象です(対象者の同意が必要)。
また、出口支援とは、刑務所、保護観察所、地域定着支援センターなどが連携して刑務所から出所する人(仮釈放者が対象)の釈放後の生活を支援する制度です。
これらの制度の活用によって高齢者と社会との接点が持たれ、再犯防止にも貢献できているようです。
これからは単に高齢者に刑罰を加えるだけが再犯を防止するための手段ではありません。
刑罰を加える以外にも、高齢者と社会との接点を持たせ、高齢者の「心の充実」を回復させることも再犯防止にとって必要となってくるでしょう。