東京都三鷹市 逮捕 窃盗事件の正当行為
- 2020.10.18
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
窃盗罪の正当行為について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
Aさんは誰かに財布を盗まれましたが、数日後、三鷹駅付近にすむ友人Vさん宅を訪れた際に自身の財布が隠してあるのを見つけました。
そこでVさんが自身の財布を盗んだと気づいたAさんはVさんに無断で財布を持ち帰りました。
このような場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~正当行為~
本件でAさんはVさん宅から無断で財布を持ち帰っているので、このような行為には窃盗罪(刑法235条)が成立するように思われます。
ただAさんは自身の財布を取り戻すために窃盗行為をしているところ、このようなAさんの行為は正当行為(刑法35条)として罪が成立しないのではないのでしょうか。
今回は正当行為がどのような場合に成立するかを説明していきます。
まず、本件における盗まれた物を無断で持ち帰るというAさんの行為は窃盗罪にあたるのでしょうか。
以下、窃盗罪の条文を確認してその成立を検討していきます。
刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
条文を簡単に分けると、①「他人の財物」といえるか②「窃取」したといえるかが問題になるとわかります。
①「他人の財物」にあたるといえるか
これについて刑法242条では「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。」と定められています。
この条文から「他人が占有」していると認められる場合には「他人の財物」にあたると判断されると考えられます。
では、本件財布はAさんにとって「他人が占有」しているものといえるのでしょうか。
この判断に際しては、「他人の占有」とは事実上の所持(事実上の占有)をいうと考えるのが一般的です。
つまり、盗品であっても実際にその物を占有しているといえる場合には「占有」が認められる可能性が高いです。
これを本件について見てみると確かにVさんはAさんから財布を盗んでいますが、その財布を自宅で保管している以上それに関して事実上の占有を有していると考えられます。
そのように考えると、Aさんにとって本件財布は「他人が占有」している物であるといえます。
とすると本件財布はAさんの物であっても「他人が占有」しているといえるので、「他人の財物」とみなされます。
②「窃取」したといえるか
この条文における「窃取」とは占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除して、その占有を自己に移すことをいいます。
これを本件について見ると、Aさんが財布を持ち去ることによって財布に対するVさんの占有が排除されてその占有がAさんに移っているといえます。
このように判断されると、Aさんの行為は「窃取」にあたります。
このように考えると、①と②の要件を満たすのでAさんの行為は窃盗罪にあたるとも思われます。
ただ、前述したように本件におけるAさんの窃取行為は自身の財布を取り戻すために行われています。
このような自救行為は正当行為(刑法35条)として罪が成立しないのではないでしょうか。
これについて、自救行為と認められるには①正規の救済手段では被害の回復が著しく困難であること②方法が社会生活上相当かつ必要な範囲であること③自救の意思があること等が必要とされています。
本件について見てみるとAさんは数日後にVさん宅で財布を見つけているところ、警察に届けることによって財布を取り戻すことも可能であったと思われます。
とすると、本件では正規の救済手段では被害の回復が著しく困難であったとはいえません。
このように判断されると、①の要件を満たさないので本件でAさんの行為は自救行為としては認められません。
以上より、Aさんの行為には窃盗罪が成立すると考えられます。