東京都多摩区 逮捕 万引きから強盗致傷
- 2020.02.13
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
万引きから強盗致傷について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
東京都多摩市に住むAさん(60歳)は,大型ショッピングセンターの食料品売り場で,菓子パン1個(時価100円相当)を肩にかけていたショルダーバックの中に入れ,レジで精算せずに売り場を出ました。そうしたところ,Aさんは,Aさんの行為を一部始終見ていた保安員のBさんから,食料品売り場を出たところで,「何で声をかけたか分かりますよね」「お金払われていませんよね」などと声をかけられました。Aさんは,執行猶予期間は経過していたものの,万引きの前科1犯を有していたことから,「このまま捕まれば刑務所行きだ」と怖くなり,Bさんの右頬を左手拳で1発殴り,さらに脚を振り払って転倒させてその場から逃げました。しかし,後日,防犯ビデオ映像などからAさんの犯行であることが判明し,Aさんは警視庁多摩警察署に強盗致傷罪で逮捕されました。BさんはAさんの暴行により歯を折るけがを負ったようです。
(フィクションです。)
~ 強盗致傷罪 ~
強盗罪(刑法236条)は「5年以上の有期懲役」と大変重たい罪ですが、強盗致傷罪はその強盗によって人に怪我を負わせた場合に問われる罪ですから、さらに刑が重たいです。
強盗致傷罪は刑法240条に規定されています。
刑法240条
強盗が人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
これからすると、強盗致傷罪は「無期又は6年以上の懲役(上限20年)」ということがわかります。
他方、万引きで多く適用される窃盗罪は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と強盗致傷罪と刑の重さに大きな開きがあります。
ではなぜ、本件では万引きに強盗致傷罪が適用されているのでしょうか?
~ 万引き後に暴行は事後強盗罪(強盗罪)だから ~
理由の一つは、万引き後に暴行を加えた場合は事後強盗罪(強盗)が成立する可能性があるからです。
事後強盗罪は刑法238条に規定されています。
刑法238条
窃盗が,財物を得てこれを取り返されることを防ぎ,逮捕を免れ,又は罪跡を隠滅するために,暴行又は脅迫をしたときは,強盗として論ずる。
事後強盗罪は,財物を得てこれを取り返されることを防ぎ,逮捕を免れ,又は罪跡を隠滅するために,暴行・脅迫を加えたことで成立する犯罪で強盗罪の一種です。
Aさんが菓子パンをショルダーバック内に隠匿する行為は窃盗既遂罪ですから,Aさんは「窃盗」に当たります。
また,Aさんは刑務所に入ることが怖くなって現場から逃走していますから「逮捕を免れる」目的があったといえます。また,Aさんが,左手拳でVさんの右頬を1発殴る,脚を振り払う行為は,相手方の反抗を抑圧するに足りる「暴行」に当たります。最後に,Aさんの「暴行」は食料品売り場出口付近で行われていますから,「窃盗」と時間的,場所的に近接しており「窃盗の機会」になされたということができます。
以上より,Aさんには事後強盗罪が成立する可能性が高いと思われます。
~ 強盗の結果、人に怪我を負わせているから ~
繰り返しますが事後強盗罪も「強盗」の一種です。
そして、刑法240条前段からもわかる通り、強盗致傷罪は「強盗が人を負傷(怪我)させたとき」に成立する犯罪です。
強盗の結果(機会に)、人に怪我を負わせた場合は強盗致傷罪に問われる可能性があるのです。
なお、はじめから人に怪我を負わせるつもりで強盗し、予定どおり怪我を負わせた場合は強盗致傷罪ではなく強盗傷人罪と呼ばれます(適用条文は刑法240条前段と同じです)。
~ 強盗致傷罪でも示談を目指そう ~
強盗致傷罪では、財物(物)に対する被害弁償と人の怪我に対する被害弁償が必要となってきます。
結果として示談が成立すれば、不起訴処分獲得、執行猶予獲得などの有利な結果を得る可能性も高くなりますから、はやめに弁護士まで相談しましょう。