東京野方警察 逮捕 窃盗か強盗か
- 2021.03.10
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弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
ひったくりが窃盗罪か強盗罪かについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
Aさんは人通りの少ない中野区道路でVさんの後ろから原付で接近し鞄を奪ういわゆるひったくりをしたところ、野方警察署に強盗罪で逮捕されてしまいました。Aさんと接見した弁護士は窃盗罪の成立を主張していこうと考えています。
(フィクションです。)
~ひったくりとは~
ひったくりについての明確な定義はありませんし、ひったくり罪という罪の名前もありません。「万引き」、「置引き」などと同様、窃盗の手口の一つにしか過ぎません。
しかし、社会的には、歩行者や自転車に近づいて、一瞬のうちに物を奪い取る行為を「ひったくり」と呼んでいるのではないでしょうか?そして、犯人は、通常、被害者に気づかれないよう、被害者の背後から近づきものを奪い取ることが多いようです。
~ひったくりはどんな罪に当たる?~
では、ひったくりはどんな罪に当たるのでしょうか?
まず考えられるのは窃盗罪です。
ひったくりは、他人の財産を奪い取るということですから刑法235条の窃盗罪に当たる可能性があります。窃盗罪の規定を確認しましょう。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
「窃取」とは、暴行、脅迫によることなく、被害者の意思に反して財物を自分(あるいは第三者)のものとする行為をいいます。
なお、窃盗罪は財産犯でありながら罰金刑が設けられていることに特徴があります。
次に強盗罪です。
他人の財産を奪い取るという点では強盗罪も窃盗罪と同様です。
ですから、ひったくりの内容によっては、ひったくりは強盗罪に当たる可能性があります。強盗罪は刑法236条1項に規定されています。
刑法236条1項
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
「暴行」とは、人の身体に対する有形力の行使をいい、強盗罪の「暴行」は、人の犯行を抑圧するに足りる程度のものでなければならない、とされています。ナイフを突きつける、殴る、蹴るなどがその典型でしょう。
「強取」とは、暴行・脅迫により、相手方の犯行を抑圧して財物を自分(あるいは第三者)のものとする行為をいいます。暴行・脅迫を手段とする点が「窃取」と異なるということがお分かりいただけると思います。
最後に強盗致死傷罪です。
強盗致死傷罪は、ひったくりそのものに対する罪ではありません。
しかし、ひったくりによって被害者に怪我を負わせたり、被害者を死亡させた場合は強盗致死傷罪に問われる可能性があります。強盗致死傷罪は刑法240条に規定されています。
刑法240条
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
「強盗が」とあるように、強盗致死傷罪は強盗犯人のための罪です。
被害者に怪我を負わせた場合は「6年以上の懲役(上限20年)」、被害者を死亡させた場合は何と「死刑又は無期懲役」ととても重たい罪であることが分かりますね。
なお、強盗致死傷罪は、犯人に、被疑者に「怪我を負わせよう」とか、被害者を「死なせよう」という意識がなくても成立してしまう可能性があります。つまり、強盗によって、たまたま被害者に怪我を負わせた、被害者を死亡させたという場合でも重たい刑罰を科されてしまう可能性があるわけです。
~窃盗罪と強盗罪の区別~
窃盗罪に当たるのか強盗罪に当たるのかを区別するポイントは、物を奪う手段として強盗罪の「暴行(あるいは脅迫)」を用いた、と認められるかどうかという点にあります。また、強盗罪の「暴行」は被害者の生命・身体に危険を及ぼす行為ですから、被害者の生命・身体に対する危険性があったかどうかという別の観点から区別されてみてもよいかと思います。
以下では、具体的事例を用いて、窃盗罪に当たるのか、強盗罪に当たるのか検討してみたいと思います。
① 歩行者に近づき、歩行者が肩にかけていた(あるいは手に持っていた)バッグを、何ら抵抗されることなく奪い取った。
→窃盗罪
② 歩行者に近づき、歩行者が肩にかけていた(あるいは手に持っていた)バッグを奪い取ろうとバッグの紐に手をかけたところ、歩行者がバッグを離さなかっため、さらにバッグ全体を握ってバッグを奪い取った。
→窃盗罪
③ 歩行者に近づき、歩行者が肩にかけていた(あるいは手に持っていた)バッグを奪い取ろうとしたところ、歩行者がこれを離さなかったため、歩行者の顔面を1発殴り、ひるんだすきにバッグを奪い取った。
→強盗罪
④ 背後から自転車に近づき、自転車の前かごに入っていたバッグを奪い取った。
→窃盗罪
⑤ 背後から自転車に近づき、自転車の前かごに入っていたバッグを奪い取ろうとしたところ、被害者がこれをつかんで抵抗したため、片手で被害者を押して転倒させ、その隙にバッグを奪い取った。
→強盗罪
⑥ 背後から自転車に近づき、自転車の前かごに入っていたバッグを奪い取ろうとしたところ、被害者がこれをつかんで抵抗したため、互いにバッグを引っ張り合いながら進んでいたところ、被害者が何かの拍子で転倒(あるいは電柱などに衝突)し、その隙にバッグを奪い取った。
→強盗罪
上記のように、窃盗罪か強盗罪かの区別は非常に重要ですから、お困りの場合は弁護士に相談して対応を検討してもらいましょう。
野方警察署 東京都中野区中野4-12-1 03-3386-0110