埼玉県飯能市 無料相談 器物損壊事件
- 2019.12.03
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 さいたま支部
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 さいたま支部が解説します。
埼玉県飯能市の会社に勤める会社員のAさんは、かねてから同僚のVさんとの折り合いが悪く、何らかの嫌がらせをしてやろうと思っていました。そして、ある日、AさんはVさんの机上に、Vさんの手帳が置かれているのを見ました。Aさんは、「これを隠せばVの仕事に支障をきたしてVが困るだろう」と思い、誰も見ていない隙にVさんの手帳を手に取り、給湯室内にあるごみ箱内に捨てました。その後、会社内ではVさんの手帳が紛失した件で、社員に対する聴き取り調査が行われました。会社内の人間の犯行である可能性が高いと考えられたためです。Aさんは調査に対して無関係であることを言いました。ところが、別の社員が調査で「AさんがVさんの手帳らしきものを持ち歩いているのを見た。」と言いました。そのことがきっかけで、Aさんの犯行ではないかと疑われ、Aさんは、再度、聴き取り調査を受けたところ、Vさんの手帳を手に取り、ごみ箱内に捨てたことを認めました。Vさんの手帳は、Aさんが言うとり清掃員がごみ箱内から発見し、Vさんに返却されていました。
(事実を基に作成したフィクションです。
~ 何罪が成立する? ~
Aさんは嫌がらせ目的でVさんの手帳を隠しています。
一見、窃盗罪が成立するのではないか、とも思われます。
窃盗罪は刑法235条に規定されています。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
しかし、この規定からは分かりませんが、窃盗罪が成立するには「不法領得の意思」が必要とされています。
不法両得の意思とは、持ち主を排除して、その持ち主の物を、その物の用法に従って使用する意思、と解されています。
したがって、AさんがVさんの手帳を使う意図でVさんの手帳を持ち去ったのであれば、確かに「不法領得の意思」を認めることはできるでしょう。
しかし、今回、Aさんは手帳をごみ箱内に捨てただけであって、Vさんの手帳を使う意思、つまり、「不法領得の意思」を認めることはできません。
そこで、Aさんに窃盗罪の成立を認めることは困難でしょう。
過去の事例では、
・教員が、校長に恨みを持って同人に責任を負わせるために、教育勅語謄本等を教室の天井裏に隠したケース(大審院大正4年5月21日判決)
・政府所有米の米俵の数が足りないつじつまを合わせるために、倉庫にある他の米俵から少しずつ米を抜き取って新たに米俵を作り、同倉庫に積んでおいたケース(最高裁昭和28年4月7日判決)
において窃盗罪の成立が否定されています。
ところで、そもそもなぜ、窃盗罪の成立に「不法領得の意思」が必要なのかといえば、器物損壊罪との成否を区別するためにもあります。
つまり、他人を物を持ち去る、という行為は外見上は窃盗罪にも器物損壊罪も当たり得る行為です。
これに「不法領得の意思」を加味することによって窃盗罪と器物損壊罪を区別する、というわけです。
器物損壊罪は刑法261条に規定されています。
刑法261条
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
器物損壊罪の成立には「不法領得の意思」を必要としません。
なお、「損壊」には、単に物理的に物を壊した場合のみならず、物の効用を喪失させた場合も含まれます。
AさんがVさんの手帳を隠す行為は、手帳を使えなくしたわけですから、物の効用を喪失させた場合に含まれます。
以上から、Aさんの行為は器物損壊罪に当たる可能性が高いでしょう。
器物損壊罪は、被害者の告訴がなければ起訴されない親告罪ですから、被害者が捜査機関に告訴状を提出しなければ、捜査機関の捜査を受けることはほぼないと言っていいでしょう。
したがって、捜査機関の捜査を避けたい場合は、被害者が捜査機関に告訴状を提出する前に被害者と示談を成立させて、告訴状を捜査機関へ提出しないということを確約していただく必要があります。
なお、示談交渉は弁護士に任せた方が無難です。