神奈川県大井町 裁判 あおり運転
- 2020.01.01
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 横浜支部
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 横浜支部が解説します。
先日12月6日、神奈川県大井町の東名高速道路であおり運転により停車させられた夫婦が後続の大型トラックに追突され死亡した事故で危険運転致死傷罪などに問われた男性に対する控訴審判決が、東京高等裁判所で開かれました。
~ 事件の概要は ~
東名あおり運転事故とは、2017年(平成29年)6月5日、神奈川県足柄上郡大井町の東名高速道路下り線で、夫婦(以下、夫をV1、妻をV2といいます。)及びその娘2人が乗る車(以下、V車といいます。)に対しあおり運転を繰り返した男性(以下、男性をA、Aの乗る車をA車といいます。)が追い越し車線上にV車を停止させたところ(A車はV車の前方に停止していた)、追い越し車線上を走行してきたトラックにV車を衝突させ、V1、V2を死亡させたほか、娘2人を負傷させた事故です。「東名あおり運転事故」とも呼ばれています。
事故の経緯を要約すると以下のとおりです。
①A車は、約700メートル、32秒間にわたり、4回、V車の直前に割り込むなどのあおり運転をした
②A車は、V車の前に割り込み、V車を追い越し車線上に停車させた
③V車の停車から約2分後、別の大型トラックがV車後部に衝突
④V1、V2死亡、娘2名負傷
~ 東名あおり運転事故の争点 ~
東名あおり運転事故では、A車は停止していたことから(速度は0kmだったことから)、危険運転致死傷罪罪の成立要件の一つでもある
重大な交通の危険を生じさせる速度
での運転であったかどうかが争点となりました。
この点に関し、検察側は「高速道路上では停止行為も危険運転に当たるため危険運転致死傷罪は成立する。」と主張したのに対し、弁護側は「A車が停止した時点で危険運転は終わっているため危険運転致死傷罪は成立しない。」と主張しました。
これを受けて横浜地方裁判所は、
高速道路上で停車させた速度ゼロの状態が同罪の構成要件の「重大な危険を生じさせる速度」とするのは解釈上無理がある
とた上で、
停車させる行為以前のあおり運転(①行為)については通行妨害運転に当たり、停止させた行為(②行為)はあおり運転(①行為)に密接に関連した行為であり、死傷の結果はあおり運転(①行為)によって現実化した
として複数のあおり運転と停止行為とを一連一体の「通行妨害運転」と認め、危険運転致死傷罪を適用しています。
そして裁判所は、男性に「危険運転致死傷罪」を適用し、
懲役18年
を言い渡しています。
この判決に弁護側が不服として控訴し、東京高等裁判所で控訴審が開かれることになった、というわけです。
~ 控訴審の結果 ~
控訴審では
危険運転致死傷罪の成立自体は肯定
しながらも、一審の公判前整理手続で、危険運転致死傷罪の成立は認めないと検察官、弁護人に表明しながら同罪の成立を認めた点につき、弁護人側に適切な反論の機会を与えず
訴訟手続きに違法があった
として審理を一審に差し戻しています。
このように、控訴審は判決において、控訴を棄却する(第1審判決を維持すること)か、原判決を破棄するかの判断をすることになります。
原判決を破棄する場合は、控訴審は自ら判断を下す場合(第1審が有罪である場合に控訴審で無罪にするなど)と、自ら判断は示さず、地裁に事件を差戻すという判断をする場合とがあります。
前者を自判、後者を差戻し判決と言います(刑事訴訟法400条)。
刑事訴訟法400条
原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる
東名あおり運転事故では一審の横浜地方裁判所に審理が差し戻されました。
今後は改めて横浜地方裁判所で審理がやり直されます。