神奈川県川崎市 無料相談 詐欺事件
- 2020.03.31
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 横浜支部
詐欺事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
神奈川県川崎市に住むAさんはオーダースーツを作ることを売りにしてスーツ販売店を経営していましたが、金銭的事情からスーツの生地となる布を入荷できずにいました。
そこでAさんは何とか稼ぎを得るために、オーダースーツを求めて来店したVさんに「50万円でオーダースーツを作ります。」と提案しておきながら実際には既製品のスーツを手渡そうと考えました。
その結果Vさんはそれが既製品であると気づかないまま、オーダースーツを購入したと思って50万円をAさんに支払いました。
Aさんはオーダースーツを得ることはできませんでしたが、購入した既製品のスーツの販売価格は支払った代金と同じ50万円でした。
このような場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~詐欺罪~
本件でAさんはオーダースーツを作ると嘘をついてVさんに既製品のスーツを販売しているので、Aさんの行為には詐欺罪(刑法246条1項)が成立するように思われます。
今回は詐欺罪の成立要件について検討していきます。
まず、詐欺罪は刑法で以下のように定められています。
刑法246条1項 「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。」
このように詐欺罪が成立するには、「欺」く行為が必要とされています。
では、本件でAさんがオーダースーツを渡すと嘘をついた行為は「欺」く行為に当たるのでしょうか。
これについて「欺」く行為とは相手方の処分行為の基礎となる重要な事項を偽ることをいいますが、Vさんはオーダースーツを求めて来店しているので購入する物がオーダースーツであるかは重要な事項であるといえます。
そして、その重要な事実を偽っているのでAさんの行為には「欺」く行為に当たり得ると考えられます。
しかし詐欺罪は相手方に財産上の損害が生じる場合に成立する罪であるところ、上記「欺」く行為も財産上の損害に向けられている必要があります。
つまり、「欺」く行為として認められるには財産上の損害を生じさせる現実的危険を有している必要があるということです。
そしてこの財産上の損害とは単純に金銭的な損害のみを指すのではなく、騙された者が求めていた経済的目的が達成されなかったという場合に認められます。
これを本件について見てみると、Vさんは50万円を支払って50万円相当のスーツを得ているので財産上の損害は生じていないようにも思われます。
しかし前述したようにVさんにとってオーダースーツであるかは重要な事項であり、Aさんに騙された場合はオーダースーツを得るという経済的目的が達成されないことになります。
したがってAさんがオーダースーツを渡すと嘘をついた行為はVさんに財産上の損害を生じさせる現実的危険を有する行為に当たると考えられます。
このように判断されるとAさんの行為は「欺」く行為にあたります。
しかし「欺」く行為があれば詐欺罪が成立するというわけではなく、①「欺」く行為によって②相手が錯誤に陥り③その錯誤に基づいて処分行為をした結果④財産上の損害が生じている必要があります。
本件では上記のように欺く行為は認められると考えられます(①)。
そしてそのAさんの行為によってVさんはオーダースーツを購入できると誤信して(②)、Aさんに50万円を支払っています(③)。
また前述のようにVさんはオーダースーツを購入するという経済的目的を達成できていないので、たとえ支払った価格相当の物を得ているとしても財産上の損害が生じているといえます(④)。
以上のように、本件では①ないし④の要件を満たすのでAさんの行為には詐欺罪が成立すると判断される可能性が高いです。