埼玉県川越市 逮捕 心中と殺人罪
- 2020.04.07
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 さいたま支部
心中と殺人の罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部が解説します。
埼玉県川越市に住むAさんは自殺志願者でネット上で同じ自殺志願者を募っていました。そうしたところ、Aさんは同じ自殺志願者であるBさん、Cさんとネットを通じて連絡を取り合うようになり、3人で集まって自殺しようということになりました。そして、Aさんは自殺のための練炭を用意し、車で待ち合わせ場所まで行きBさん、Cさんと落ち合いました。そして、3人はAさんの運転で人目の付かな場所まで行き、車内で練炭を焚いて自殺を試みました。数日後、3人は近くを通りかかり異変を感じたWさんに川越警察署に通報され、Bさん、Cさんは遺体となって発見されました。一方、Aさんは辛うじて意識があり、病院へ救急搬送されたところ何とか一命をとりとめました。ところが、Aさんは容体が回復した後、埼玉県川越警察署に同意殺人罪で逮捕されてしまいました。
(事実を基に作成したフィクションです。)
~心中と殺人の罪~
自殺しようとしたが死ぬことができなかった場合は、もちろんその人が罪に問われることはありません。自分の命は自分で決めるものであり自殺未遂罪なる罪は規定されていないからです。しかし、他人の自殺に関与した場合は話は別です。他人の同意なく殺害した場合は殺人罪(刑法199条)に問われることはもちろん、たとえ同意していた場合でも自殺関与罪、同意殺人罪(刑法202条)に問われる可能性があります。
刑法199条【殺人罪】
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法202条【自殺関与罪・同意殺人罪】
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくは承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
まず、Aさんが逮捕された同意殺人罪は「人をその嘱託を受け若しくは承諾を得て殺した」場合に成立する犯罪です。
ここで「嘱託」とは被害者から殺害を依頼されてこれに応じることをいい、「承諾」とは被害者から殺害することについての同意を得ることをいいます。
自身は死ぬ意思がない場合のみならず、本件のような共同自殺、つまり自らも死ぬ意思がありながら共同して自殺行為を図り、結果として生き残った場合でも同意殺人罪は成立するとするのが通説・判例(大判大4年4月20日)の考え方です。
もっともこの嘱託、承諾があったといえるためには
・被殺者自身が行ったものであること
・事理弁識能力のある被殺者の自由かつ真実の意思に出たものであること
・被殺者の殺害に着手する以前になされたものであること
が必要です。
したがって、「無理心中(死ぬつもりのない他人を無理やり殺して自分の自殺の道連れにすること)」はそもそも被殺者の嘱託・同意がなく、幼児を連れての親子心中
は、事理弁識能力のある被殺者の自由かつ真実の意思に出たものとは認められないことから同意殺人罪ではなく殺人罪が成立します。
また、自殺関与罪は「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ」た場合に成立する犯罪です。
「教唆して自殺させる」とはもとから自殺意思のない方に自殺の意思を決意させて自殺させること、「幇助して自殺させる」とは自殺意思のある方の自殺を容易にすることをいいます。この幇助に関しては道具、自殺のための薬を与えるなどの有形的(物質的)方法のほか、自殺のやり方を教える、場所を提供するなど無形的(精神的)な方法も含まれますから注意が必要です。
自殺は罪になりませんが、理由はともあれ他人の命を殺めてたり、自殺の手助けをしてしまうとやはり罪に問われる可能性があります。
自殺関与罪、同意殺人罪の法定刑は「6月以上7年以下の懲役又は禁錮」と殺人罪と比べ執行猶予付き判決の可能性も充分にある軽い犯罪ですが、それでも人の死という結果を招いたことにはかわりありません。共同自殺の場合、社会的な被害者ともなり加害者ともなり得ることは覚えておきましょう。