東京都調布市 逮捕 強盗致死傷事件の共犯(教唆犯)①
- 2020.07.15
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部
強盗致傷罪の共犯(教唆犯)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が、解説します。
東京都調布市に住むAさんは知人Bさんから金銭に困っているとの相談を受けていました。
ただAさんは以前からBさんを嫌っていたため、調布駅付近のVさんが管理する倉庫内には何も保管されていないことを知りながら「Vの倉庫に行って、金目の物を盗んだらいい。」と嫌がらせの目的で告げました。
事情の知らないBさんがAさんの言うとおりに倉庫に向かったところ、その日はたまたま倉庫内にダイヤモンドが保管されていたのでBさんはこれを自身の鞄に入れて倉庫を出ました。
その後倉庫を出た際にBさんはVさんに見つかったため、捕まらないためにVさんの頭部を数回殴打しました。
Bさんに殴られたことでVさんが全治2週間の怪我を負った場合、Bさんは調布警察に逮捕されました。では、Aさんはどのような罪が成立するのでしょうか。Aさんは逮捕されるのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~強盗致傷罪~
まずBさんがVさんの管理する倉庫に無断で入った行為は管理者であるVさんの意思に反する立ち入りといえるので、このような行為に建造物侵入罪(刑法130条前段)が成立すると思われます。
次にBさんは倉庫内にあったダイヤモンドを自身の鞄に入れた上で逃走する際にVさんの頭部を殴打しているので、かかる行為には強盗致傷罪(刑法240条前段)が成立すると考えられます。
今回は強盗致傷罪の成立について説明していきます。
まず、強盗致傷罪の条文を確認していきます。
刑法240条 「強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。」
条文からも分かるように、強盗致傷罪が成立するには①行為の主体が「強盗」である②「人を負傷させた」といえるという2つの要件が必要となります。
順にそれぞれの要件を確認していきます。
①主体が「強盗」といえるか
Bさんが「強盗」といえるか判断するにおいて、ここで強盗罪(刑法236条1項)の条文を確認しておきます。
刑法236条1項 「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。」
このように強盗罪が成立するには、暴行・脅迫を手段として「他人の財物」を奪っている必要があります。
本件についてこれを見てみると確かにBさんは暴行を行っていますが、それはダイヤモンドを盗んだ後であり暴行を手段としてダイヤモンドを奪っているとはいえません。
よって、Aさんの行為に強盗罪は成立しないと考えられます。
ただAさんの行為には事後強盗罪(刑法238条)が成立すると思われます。
刑法238条 「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。」
この条文を本件について見てみると、BさんはVさん所有のダイヤモンドを鞄の中に入れて占有を自身の支配下に移転しているのでBさんは「窃盗」であるといえます。
また、Bさんは「逮捕を免れ」る目的でVさんの頭部を数回殴るという「暴行」を行っています。
したがってBさんの行為に事後強盗罪が成立し、Bさんは「強盗」であると判断される可能性が高いです。
②「負傷させた」といえるか
本件ではBさんによる強盗の機会に行われた暴行によってVさんが全治2週間の怪我を負っているので、Bさんは相手を「負傷させた」と認められる可能性が高いです(②)。
以上より本件では①②の要件を充足するので、Bさんの行為には強盗致傷罪が成立すると考えられます。
次のブログでAさんにどのような罪が成立するのか検討していきます。
~参考条文~
刑法130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。