北海道札幌市 無料相談 公務執行妨害事件
- 2020.07.30
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部
公務執行妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部が解説します。
北海道札幌市に住むAさんは金銭に困っていたため、通りすがりのVさんのポケットに入っていた財布をこっそりと抜きだし自身の鞄に入れました。
この一部始終を見ていた警察官であるKさんはAさんを現行犯逮捕しようと追いかけましたが、Aさんを途中で見失ってしまいました。
そこでKさんはとっさに近くにいたBさんを逮捕しようとしましたが、Bさんの容姿はAさんとは明らかに異なっていました。
対してBさんは身に覚えのない逮捕を免れようとKさんの胸部を強く押して抵抗しました。
このような場合にAさんとBさんにはそれぞれどのような罪が成立するのでしょうか。
~公務執行妨害罪~
最初にAさんはVさんの財布をこっそり自身の鞄に入れているので、このような行為は窃盗罪(刑法235条)にあたると考えられます。
次にBさんは警察官であるKさんの逮捕行為に対して胸部を強く押して抵抗しているところ、このようなBさんの行為に公務執行妨害罪(刑法95条1項)は成立するようにも思われます。
今回は公務執行妨害罪がどのような場合に成立するのかを検討していきます。
公務執行妨害罪の条文は以下のように定められています。
刑法95条1項 「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」
条文にもあるように、①「公務員」の「職務」執行に対して②「暴行又は脅迫」を行った場合に公務執行妨害罪が成立します。
そして本件でBさんはKさんの胸部を強く押しているので、このような行為は「暴行」にあたると判断される可能性が高いです(②)。
では、Bさんの「暴行」は「公務員」の「職務」執行に対して行われたといえるのでしょうか。
これについてAさんはKさんによる逮捕行為に対して暴行を行っているところ、警察官という「公務員」の「職務」執行に対して暴行を行っているようにも思われます。
ただBさんは実際には罪を犯しておらず、本件逮捕は人違いであり違法な逮捕と考えられます。
このような違法な「職務」に対して暴行が行われる場合にも公務執行妨害罪は認められるのでしょうか。
公務執行妨害罪における「職務」の適法性が問題となります。
まず「職務」が適法である必要があるのか問題となりますが、公務員による違法な行為に対して暴行が行われる場合にも公務執行妨害罪の成立を認めてしまうと違法な「職務」を保護することになってしまい妥当ではありません。
したがって、公務執行妨害罪が成立するには「職務」が適法である必要があると考えられます。
では、どのような場合に「職務」が適法であるといえるのでしょうか。
これについて、一般的には適法な「職務」といえるには(1)当該公務員の一般的職務権限・抽象的職務権限に属すること(2)具体的職務権限に属すること(3)職務行為の有効要件である法律上の重要な条件・方式を履践していることが必要であると考えられています。
そして、その判断は行為当時の具体的状況に即して客観的に判断されるべきであるとされています。
本件ではBさんは実際には罪を犯しておらず、また容姿もAさんとは明らかに異なっています。
とすると行為時の具体的事情において客観的に判断すると逮捕行為は警察官の職務権限に属するものではありますが、Bさんを現行犯逮捕することが有効となる要件が履践されているとは言えません。
したがって、本件逮捕行為は違法であると判断される可能伊勢が高いです。
違法な「職務」は保護されないのでそのような判断が下された場合、Bさんに公務執行妨害罪は成立しません。
~参考条文~
刑法235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。