東京都墨田区 逮捕 同意殺人事件
- 2020.08.25
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部
Twitter同意殺人事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
2020年3月、東京都墨田区在住のSはTwitter上で、同じく東京都墨田区在住のQと知り合った。Qはかねてから自殺を考えており、Twitter上でもそのような趣旨の呟きをしていたが、きっかけがなく行動を起こしていなかった。SはQの呟きを見て、自殺を手伝うことを決意し、Qはそれを承認した。同年4月、二人は墨田区内のホテルに集合した。そして同ホテル内で、改めてQは死にたいと思いSに自分を殺すよう頼み、SはQの首を絞め殺害した。Qのうめき声を不審に思ったホテルの従業員が墨田区にある向島警察署に通報した。
この場合、Sは向島警察署に逮捕されるのでしょうか。
・自殺関与罪と同意殺人罪
自殺関与罪と同意殺人罪については刑法202条に記されています。
第202条(自殺関与及び同意殺人)
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
今回は殺人事件ではあるものの、被害者にその同意があるケースです。この場合、刑法では上記のように条文を定めています。ちなみに殺人罪については刑法199条に記されています。
第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
この両者の区別に関しては、後ほど解説します。
では、今回のケースは自殺関与罪、あるいは同意殺人罪のどちらが成立するのでしょうか。本条を詳しく見ていきましょう。本条は「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ」又は「人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は」に分けられます。そして前者が自殺関与罪で、後者が同意殺人罪となります。これまでのケース同様、犯罪が成立するには「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるため、まずは両罪の構成要件に【ケース3】があてはまるか検討します。
はじめに自殺関与罪の構成要件に該当するかみてみましょう。第一に「人を」ですが、本罪の客体である人は「自殺の意味を理解し、自由な意思決定能力を有する者」とされています。つまり意思能力を欠く幼児や心神喪失者の自殺を教唆教・幇助した場合は、本罪ではなく殺人罪に問われます。今回はQが幼児でもなく心神喪失者でもないため、本罪の人に当たります。第二に「教唆し」についてですが、本条の教唆とは、意思決定能力があり、自殺意思を有しない者に自殺意思を起こさせることです。簡単にいうと、自殺したいと思っていない人に自殺を勧めるもしくは唆すということです。今回のケースでは、Qに意思決定があるものの自殺意思はかねてからあり、事件当時も改めて死にたいという思いがあったのであてはまりません。第三に「幇助」についてです。本条の幇助とは、自由意思を有する者の自殺を援助し、自殺を容易にすることです。今回のケースでは、SはQの手助けはしましたが、それ以上にQのことを殺害しているので、これは該当しないといえます。
次に同意殺人罪の構成要件に該当するかみてみましょう。第一に「人を」ですが、これは自殺関与罪と同様の意味であるので、今回は当てはまります。第二に「その嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した」についてです。嘱託を受けるというのは、被害者にお願いされるという意味で、その承諾を得るとは、被害者が加害者による殺害行為を承諾するという意味です。今回のケースでは、QはSに自分を殺すよう頼んでいるので、当てはまるといえます。
つまり今回は同意殺人罪の事例であるということになります。
違法性に関しては正当防衛(36条1項)などの事実はなく、責任に関してもSは心神喪失者等でないので、以上見てきたことをまとめるとSの行為に同意殺人罪(202条後段)が成立するといえようです。
・殺人罪になるケース
刑罰を検討する前に、今回とは異なり、殺人罪が成立するケースを考えてみましょう。まず自殺関与罪と殺人罪の区別をみてみましょう。前述した通り、自殺関与罪にあたる行為は教唆又は幇助でした。殺人罪が成立する場合は、被害者を脅迫したり、欺罔することで自殺させる場合です。判例では、自動車の転落事故を装い被害者を自殺させて保険金を取得する目的で、極度に畏怖して服従していた被害者に対し、暴行、脅迫を交えつつ、岸壁上から車ごと海中に転落して自殺することを執拗に要求した事案について、「漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ、被害者をして、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、被害者に命令して車ごと海に転落させた加害者の行為は、殺人罪の実行行為に当たる」として殺人罪が認められています。また、被害者から心中をしたいと言われた加害者が、追死を装い致死量の青化ソーダを被害者に与えて飲ませ死亡させた事案について、「加害者に追死の意思がないに拘らず被害者を欺罔し加害者の追死を誤信させて自殺させた加害者の所為は通常の殺人罪に該当する」として、こちらも殺人罪が認められています。
同意殺人罪が殺人罪になるケースは、同意があるのにないと誤信して人を殺害した場合です。例えば、人を殺害したところたまたま被害者が殺してほしいと思っていた場合です。このような場合、殺人罪の未遂が成立すると一般的に解釈されています。なお、このように被害者の承諾があったか否かは、主観的事情を考慮しなければならず、また被害者が死んでいるケースが多いため事実認定が難しいといえます。
・刑罰について
以上見てきたことをまとめると、Sの行為には同意殺人罪が成立といえそうです。では、成立したとしてどのような刑罰が科されるのでしょうか。本条では、「6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する」と書かれています。期間に関しては「6月以上7年以下で」、また懲役か禁錮かは裁判所の判断によって選ばれます。
・まとめ
よって、Sは同意殺人罪(202条後段)にあたり、6月以上7年以下の懲役又は禁錮が科せられることということになります。
刑に関しては初犯か前科を持っているかによって変わります。