東京都武蔵野市 無料相談 傷害事件と緊急避難②
- 2020.09.25
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
傷害罪と緊急避難について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
~前回のブログの続き~
東京都武蔵野市に住むAさんは吉祥寺駅に住む知人Vさんにいきなりバットで襲いかかられたので、自身の身を守るために近くにあったコンクリート片をVさんに投げつけました。
そのコンクリート片はVさんの頬をかすり、Vさんは擦り傷を負いました
またAさんの投げたコンクリート片はVさんの背後にいたXさんに当たり、Xさんは全治数週間の怪我を負いました。
AさんはXさんの存在を認識していませんでしたが、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~緊急避難~
前回のブログでAさんがVさんにコンクリート片を投げた行為については正当防衛(刑法36条1項)が成立し、傷害罪(刑法204条)は成立しない可能性が高いと説明しました。
ではAさんがXさんにコンクリート片を投げた行為には傷害罪が成立するように思えますが、この行為にも正当防衛は成立しないのでしょうか。
前回説明したように、簡単には①「急迫不正の侵害」に対して②権利を「防衛するため」に③「やむを得ずした行為」について正当防衛が成立します。
これを本件について見るとXさんはAさんに対して何らの侵害を加えていないので、「急迫不正の侵害」は認められないと思われます(①)。
したがって、Aさんの行為に正当防衛は成立しない可能性が高いです。
ただAさんの行為に正当防衛が成立しないとしても、緊急避難(刑法37条1項)は成立しないのでしょうか。
刑法37条1項 「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を越えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」
簡単に説明すると、緊急避難は①「現在の危難」があり②それを「避けるために」③「やむを得ずにした行為」について、④「生じた害が避けようとした害の程度を超えない」場合に緊急避難が成立します。
正当防衛によく似たものに思えますが、正当防衛は「不正な侵害」に対する反撃行為であり緊急避難は「現在の危難」を避けるための行為であるという点で大きく異なります。
以下、本件Aさんの行為が緊急避難の要件を満たすか検討していきます。
①「現在の危難」があるか
AさんはVさんにバットで殴られそうになっているところ、Aさんに身体の安全に対する「危難」が切迫しているといえます。
したがって、「現在の危難」が認められる可能性が高いです。
②それを「避けるために」
「防衛」の意思と避難の意思は類似するものであるところ、前回のブログで説明したようにAさんには「防衛」の意思が認められるので同様に避難の意思も認められる可能性が高いです。
③「やむを得ずにした行為」といえるか
「やむを得ずにした行為」と認められるには危難を避けるために他に取り得る手段がなかったことをいいますが、武器を持たないAさんがバットを持つVさんに公園で反撃するにはコンクリート片を投げる以外に方法はなかったと認められる可能性が高いです。
そのように判断された場合、Aさんの行為は「やむを得ずにした行為」といえます。
④「生じた害が避けようとした害の程度を超えない」といえるか
Aさんは自身の身体の安全を守るためにXさんの身体に害を加えているところ、「生じた害が避けようとした害の程度を超え」なかったと思われます。
以上より、①ないし④の要件を満たすので緊急避難が成立しAさんの行為に傷害罪は成立しないと考えられます。
そのような場合、Aさんは何らの罪責を負いません。
~参考条文~
刑法36条1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
刑法204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。