東京品川 逮捕 動物愛護法違反
- 2021.12.20
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
動物愛護管理法違反について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
2021年10月10日、東京都品川区在住のLは、ペットとして飼育していた犬2匹を床に強く叩きつけ、死亡させる様子を撮影した動画をインターネット上にアップロードした。一週間後、たまたまその動画を見たKの通報により、Lは荏原警察署に逮捕させた。
この場合、Lは何の罪に問われるのでしょうか。
*フィクションです
・動物愛護管理法違反
近年動物に対しての虐待が急増しており、さらにはその様子をインターネット上にアップロードするといった悪質な行為が多く見受けられます。今回のケースでは、飼い主がペットに対し暴力を加え、死亡させた場合です。この場合、どのような罪が成立するのか、以下検討します。動物虐待については、動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護管理法」といいます。)に記されており、特に今回のような虐待行為については、44条に記されています。
第44条
1 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3 愛護動物を遺棄した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
4 前3項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬(は)虫類に属するもの
犯罪が成立するには、「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるので、構成要件に該当するか、から検討します。今回は1項を検討します。
第一に、「愛護動物を」ですが、愛護動物の定義は同条4項に定められています。1号では、「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」と11種類が定められており、これらは類型的に人間によって飼育されることが多い動物を指しているといえます。2号では、1号以外の「人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬は虫類に属するもの」を対象としています。動物愛護管理法はこれまで多くの改正が行われているため、今後4項に規定されていない動物も、愛護動物として定義される可能性があります。今回のケースでは、Lが死亡させたペットは犬なので、4項1号に該当し、「愛護動物を」に該当します。
第二に、「みだりに殺し、又は傷つけた者」ですが、「みだりに」というのは、正当な理由がある場合、つまり社会通念上許容される殺傷を除外するための規定であるとされています。例えば、動物の去勢手術は、動物の身体を傷つけていますが、動物愛護管理法7条5項では、
第7条(動物の所有者又は占有者の責務等)
5 動物の所有者は、その所有する動物がみだりに繁殖して適正に飼養することが困難とならないよう、繁殖に関する適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
と記されていることから、動物の状態に鑑み、獣医師に依頼して行うような場合には、正当な理由があるといえるでしょう。今回のケースでは、Lは正当な理由なく、ペットである犬2匹を床に強く叩きつけ死亡させたので、Lは「みだりに殺し、又は傷つけた者」に該当します。
次に、違法性と責任ですが、違法性に関しては緊急避難(刑法37条1項)などの事実はなく、責任に関してもLは心神喪失者等でないので、以上見てきたことをまとめるとLの行為に動物愛護管理法違反(44条1項)が成立するといえそうです。
・器物損壊罪(動物傷害罪)との関係
第261条(器物損壊等)
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑罰について解説する前に、刑法261条との関係について解説します。
あまり知られていませんが、刑法上、動物は物として判断されます。「前3条に規定するもののほか」というのは、公用文書等毀棄罪、私用文書等毀棄罪、建造物等損壊及び同致死傷罪の客体以外という意味であり、これ以外の他人の所有物を損壊した場合は「器物損壊罪」、他人の動物を傷害した場合は「動物傷害罪」が成立するということになります。
そして、動物愛護管理法44条と動物傷害罪の違いは、「他人の」動物か否かに決せられます。今回のケースのように飼い主が自分のペットに傷害を負わせる場合には、「他人の物」とはいえないため、動物傷害罪が成立しないということになります。逆に言えば、「他人の」ペットを正当な理由なく傷害した場合には、両者が適用される可能性があるということです。いずれにせよ、人と同様に、動物に対してもむやみに暴力を加えるのはやめるべきです。
・刑罰について
では成立したとしてどのような刑罰が科せられるでしょうか。本条では、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。」と書かれています。よって、期間に関しては「1月以上5年以下」、罰金が科せられる場合には「1万円以上500万円以下」となります.
・まとめ
よって、Lの行為は動物愛護管理法違反(44条1項)にあたり、「1月以上5年以下」の懲役又は「1万円以上500万円以下」の罰金が科せられるということになります。
刑に関しては、初犯か、前科を持っているか、等によって変わります。
荏原警察署 〒142-0063 東京都品川区荏原6丁目19-10 TEL:03-3781-0110