福岡市中央区 逮捕 公務執行妨害事件
- 2019.10.28
- コラム
あいち刑事事件総合法律事務所 福岡支部
福岡市中央区に住むAさんは、お金に困っており、同区内のコンビニエンスストアX店でコンビニ強盗し、店員から現金5万円を奪い取り、車に乗って逃走しました。その後、X店から「強盗の被害に遭った。」「車で逃げられた。」との通報を受けた福岡県中央警察署の警察官は、犯人検挙のため付近一帯に緊急配備検問を敷きました。そうしたところ、車を運転していたAさんは検問の網にひっかかり、車を停止させました。Aさんは、運転席のドアガラスを開けると警察官Yから「この近くでコンビニ強盗が発生しました。」「ご協力いただけませんか。」と言われました。すると、このまま車を降りると「逮捕される」と思ったAさんは、怖くなってそのまま車を急発進させ、その勢いで警察官Yを地面に転倒させてしまいました。その後、Aさんは追跡してきたパトカーに追い付けれ、公務執行妨害罪で現行犯逮捕されるとともに、強盗罪でも逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ 公務執行妨害罪 ~
公務執行妨害罪は刑法95条1項に規定されています。
刑法95条1項
公務員が職務を執行するにあたり,これに対して暴行・脅迫を加えた者は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
Aさんはこの公務執行妨害罪で現行犯逮捕されています。
~ 「職務を執行するにあたり」について ~
当然のことながら、公務執行妨害罪は、公務員の職務執行中に成立し得る犯罪です。したがって、完全にプライベート中の公務員に対して暴行を加えても、暴行罪(刑法208条、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)に問われる可能性はありますが、公務執行妨害罪に問われることはありません。
本件は、警察官の「検問」という職務執行中に起きました。
この「検問」は
・緊急配備検問:特定の犯罪の発生に対して、犯人検挙と情報収集を目的としてなされる検問
・交通検問:交通違反の予防検挙を目的としてなされる検問
・警戒検問:不特定の一般犯罪の予防検挙を目的としてなされる検問
の3つに区分されると言われています。
本件の検問は、上記のうち「緊急配備検問」に当たります。
緊急配備検問の法的根拠は、
警察官職務執行法2条1項、あるいは刑事訴訟法197条1項
にあり、犯罪の発生から間がないか、あるいは犯人ないし重要参考人が当該道路を走行している可能性が高い場合に行うことができる、とされています。
* 警察官職務執行法2条1項 *
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪につ いて、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
* 刑事訴訟法197条1項 *
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。
~ 「暴行」について ~
一般的に,「暴行」とは人の身体に対する有形力の行使をいいます。ただ,公務執行妨害罪は,公務の円滑な執行を保護する犯罪ですから,公務執行妨害罪の「暴行」は,公務員の身体に対して直接加えられる有形力の行使(直接暴行)に限られず,公務員に向けられてはいるが直接公務員の身体に対して加えられたものではない有形力の行使(間接暴行)をいうとされています。本件の場合、直接暴行に当たるでしょう。
しかし、車に乗車中、警察官から職務質問などを受け、それを振り切るためとっさに車を急発進させた場合、とっさの出来事であるため、「警察官に意図して「暴行」を加えたわけではない」と主張される方もおられます。つまり、公務執行妨害罪の「暴行」の「故意」の否認です。こうした場合は、検問を実施した警察官の位置、態勢などの客観状況に加えて、被疑者・被告人がそれをどう認識できたか、していたか、という点がポイントとなります。
なお、公務執行妨害罪の「暴行」は、職務執行の妨害となるべき程度のものでなければなりませんが、同罪はあくまで公務の円滑な執行を保護するものでありますから、現実に職務が妨害されたことまでは必要とされていません。