京都 窃盗罪の間接正犯
- 2022.04.18
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 京都支部
窃盗罪の間接正犯について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
京都市に住むAさんは金銭に困っていたため、友人のVさんが保有する高級な壺を盗もうと考えました。
そこでAさんは自ら犯行を実行して捕まることを避けるために、息子のBさん(10歳)にVさん宅に侵入してその壺を盗むように命じました。
Bさんは人の物を盗むことは悪いことであると知っていたのですが、Aさんから日常的に暴行を受けていたことから逆らったらまた殴られてしまうと考え、Aさんに言うとおりに犯行を実行しました。
このような場合、AさんとBさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~刑事未成年者~
まず実際に壺を盗んでいるのはBさんであるので、最初にBさんにどのような犯罪が成立するのかを検討していきます。
本件でBさんはVさん宅に「侵入」し、壺を「窃取」しているので、Bさんの行為には住居侵入罪(刑法130条)と窃盗罪(刑法235条)が成立するように思われます。
もっとも刑法41条で「14歳に満たない者の行為は、罰しない。」と定められています。
したがって、10歳であるBさんに犯罪は成立しません。
~間接正犯~
では、Aさんにはどのような犯罪が成立するのでしょうか。
Aさんは実際に犯罪にあたる行為を行ったわけではないので、窃盗罪の正犯(自ら犯罪を実現した者)が成立しないようにも思えます。
しかし、自分の利益のためにBさんに犯罪を命じたAさんが正犯として処罰されないのは妥当ではありません。
そこでAさんに間接正犯が成立しないかが問題となります。
間接正犯とは他人を道具として利用して犯罪を実現した場合には正犯として扱われるというものです。
この間接正犯は自ら手を下して犯罪を実行したわけではないにも関わらず犯罪が成立するので、間接正犯が成立するには①正犯意思を持っていて②他人の行為を道具として一方的に支配・利用していることが必要であると考えられています。
では、本件でAさんは①②を満たすのでしょうか。
①正犯意思について
正犯意思とは自ら犯罪を実現する意思のことを言いますが、本件でAさんは自身が金銭に困っているのを解消するためにVさんの壺を盗んでいるところ、自分のために窃盗行為を行う意思を有していたといえます。
したがって、Aさんには正犯意思が認められます。
②他人の行為を道具として一方的に支配・利用していたか
Bさんは人の物を盗むことは悪いことであると知りながらVさんの壺を盗んでいるところ、Bさんは自分の意思で窃取行為を行っており、AさんはBさんの行為を道具として一方的に支配・利用していたとは言えないようにも思えます。
しかし、BさんはAさんから日常的に暴行を受けており、Aさんに逆らうことができないために犯行を実行しています。
このような場合においてはBさんの行為は畏怖・抑圧された状況下でなされており、BさんはAさんから新たな暴行を受けることを恐れて窃取行為の命令に応じたといえます
そうだとすると日常的な暴行を行っていたAさんは、Bさんの行為を道具として一方的に支配・利用していたと認められます。
以上より本件では上記①②が満たされるので、Aさんの行為には住居侵入罪と窃盗罪が成立します(窃盗目的で住居侵入が行われているので、両罪はけん連犯(刑法54条1項後段)として扱われます。)。
~条文~
刑法54条1項 1個の行為が2個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
刑法130条 「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」
刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。