宮城県岩沼市 逮捕 現住建造物放火罪と法律上の減軽
- 2020.02.16
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 仙台支部
現住建造物放火罪と法律上の減刑について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 仙台支部が解説します。
A女さんは、B男さんと子供1人の3人で宮城県岩沼市にある一軒家に住んでいました。AさんとBさんは結婚して5年が経ちますが、Aさんは2年ほど前からBさんの度重なる浪費癖とBさんに対するDVに悩まされていました。Aさんは何度もBさんに離婚を申し入れましたが聞き入れてもらえませんでした。そこで、Aさんはある日「この人と別れるには家を焼くしかない」と思い、予め子どもを実家に預けた上で、B男さんが自宅に就寝中、B男さんの寝室にライターで火をつけた新聞紙を投げ込みました。火はあっという間に寝室に広がり煙が充満し始めました。他方、B男さんは煙の臭いで目が覚め、「大変なことになったと思い」、自宅外に出て119番通報しました。火は駆け付けた消防隊により消し止められました。また、B男さんは現場に来た宮城県岩沼警察署の警察官に「犯人は妻だ」と言いました。これを聞いた宮城県岩沼警察署が自宅付近を捜索したところ、Aさんが路上にうずくまっていたため事情を聴いたところ、手には犯行に使用したと思われるライターを所持していました。また、Aさんは警察官から「あなたがやったのか。」と聴かれると「私がやりました。」と言って犯行を認めました。そこで、Aさんは宮城県岩沼警察署の警察官に現住建造物等放火罪の被疑者として準現行犯逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ 現住建造物等放火罪 ~
現住建造物等罪は刑法108条に規定されています。
刑法108条
放火して,現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物(略)を焼損した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
「放火」とは、
・ライターで新聞紙に火をつけ、その新聞紙を家の中に投げ込む
・燃えている火の中に油を注ぎこむ
など、故意に目的物(家等の建造物)の焼損(燃えること)に原因力を与えることをいいます。
これに対して、失火罪(刑法116条)の「失火」とは
・油料理で火を使ってる最中、かかってきた電話に夢中になり、油を枯渇させて火を台所壁に燃え移らせた
・たばこの火の不始末
など、具体的状況下において、一般普通人に要求される注意義務に違反して、目的物の焼損に原因を与えたことをいいます。
「人」とは犯人以外の人をいいます。ですから、家族であっても「人」にあたります。
「焼損」については様々な解釈がありますが、判例は、「被が媒介物を離れて目的物に燃え移り、目的物が独立して燃焼を継続し得る状態に達すること」と解しています。これからすると、住居を全焼させた場合はもちろん、その一部のみを燃やした場合も「焼損」に当たることになります。
~ 減軽 ~
減軽は法律に規定された刑の重さ(法定刑)を軽くすることです。放火罪の法定刑は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」とされています。
どの程度減軽されるかは刑法68条に規定されています。
刑法68条1号では
死刑→無期懲役若しくは禁錮又は10年以上の懲役若しくは禁錮
刑法68条2号では
無期懲役又は禁錮→7年以上の有期懲役又は禁錮
刑法68条3号では
有期の懲役又は禁錮→その刑の長期及び短期の2分の1を減ずる
とされています。
減軽事由には法律上の減軽事由と裁判上の減軽事由があります。
法律上の減軽事由には心神耗弱、中止未遂、過剰防衛などがあります。裁判上の減軽事由は酌量減軽です。
酌量減軽とは犯罪の情状に酌量すべき点が認められる場合に減軽することができる(任意的減軽)、というものです。今回、Aさんは長年にわたりBさんからDVを受けていたとのことですから、裁判ではこの点を強調して酌量減軽の獲得を目指す必要があります。
有期の懲役刑が減軽されれば執行猶予を獲得できる可能性もあります。