大阪市福島区 無料相談 窃盗罪と詐欺罪
- 2019.11.01
- コラム
あいち刑事事件総合法律事務所 大阪支部
大阪市福島区に住むAさんは車を欲しいと思っていましたが、車の費用を工面することはできませんでした。
そこでAさんは近くの販売営業所に行き、試乗するふりをしてそのまま車を乗り逃げしようと考えました。
計画を実行する当日、Aさんがそのような考えを持っていると知らなかった営業所の従業員Vさんは試乗が終わったら当然に帰ってくると思いAさんの試乗を承諾しました。
結果Aさんはそのまま車を乗り逃げしたのですが、この場合Aさんにはどのような犯罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~窃盗罪と詐欺罪~
本件でAさんは販売営業所の試乗車を勝手に乗り逃げしているところ、窃盗罪(刑法235条)又は詐欺罪(刑法246条1項)が成立するように思われます。
では、Aさんにはそのどちらが成立するのでしょうか。
今回は窃盗罪と詐欺罪の成立要件の違いを見ていきます。
まず、両罪の条文を見ていきます。
窃盗罪:他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
詐欺罪:人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
条文からもわかるように、両罪は共に他人の財物を自身の占有下に置くという点では類似する罪といえます。
ただ窃盗罪は財物を「窃取」することにより成立し窃盗罪は「人を欺いて」財物を「交付」させることにより成立するところ、両罪の違いは被害者が行為者に騙されて財物を交付したかどうかによって判断できると考えられます。
この考えを用いて本件を検討してみると、VさんはAさんが通常の試乗をすると思って車を貸し出しているのでAさんに騙されて試乗を承諾しています。
よって、Vさんは欺かれているのでAさんには詐欺罪が成立するようにも思われます。
ただ、ここでVさんが車を「交付」したといえるのかどうかが問題となります。
「交付」がなされたといえるには、車の事実上の支配がAさんに移ったと認められなければいけません。
では、どのような場合に事実上の支配を有すると認められるのでしょうか。
この点、ただ単に物を現実的に占有するからといってその物の事実上の支配までを有していると認定することはできません。
というのも物を占有している場合でもその物の占有が委託された場合等は、委託した者がその占有を監視したり物の所在を確認出来たりする場合が多く実際にその物を支配しているのは委託した者と考えられるからです。
このような場合、物を事実上支配しているのは占有者ではなく委託者である以上「交付」行為は認められません。
これを本件について見てみると、確かにAさんは試乗車を乗り逃げしていて現実的な占有を有しているといえます。
ただVは試乗のためにAに車を貸し出しただけであり、車の占有をAさんに委任したに過ぎないといえます。
また試乗の際にはそのコースや時間等が定められている場合が多く、試乗している者は自由に行動することは禁止されています。
このように考えると試乗コースにおいてVさんはAさんの占有を監視できるような状態にあったといえ、そのコース内での試乗を許したとしても事実上の支配をAさんに移転したとまでは認められない可能性が高いです。
とすると事実上の支配がVさんにある以上、Aさんは財物を「交付」されたとはいえません。
したがって、Aさんに詐欺罪が成立しないと思われます。
ただAさんはそのまま車を乗り逃げしているところ、試乗コースから外れVさんの監視から外れた時点で自動車の事実上の支配を得たといえます、
この時、AさんはVさんの意思に反して試乗車を自身の占有下に置いているので窃盗罪が成立する可能性が高いです。