さいたま 無料相談 殺人罪と殺人関与罪
- 2021.10.25
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 さいたま支部
殺人罪と殺人関与罪について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部が解説します。
①埼玉県さいたま市に住むAさんはVさんと交際をしていましたが、些細なことでケンカが続くようになり、Vさんに別れ話を持ち掛けました。
Vさんはそれに応じず「別れるくらいなら一緒に死にたい。」と心中を申し出たので、Aさんは自身が死ぬつもりは全くないにも関わらず「お前の後に俺も続くよ。」と追死するかのように装いました。
VさんはAさんの言葉を信じて致死量の毒を飲んだ結果、死亡してしまいました。
②同市内に住むBさんは友人Xさんに普段から嫌がらせを受けていたため、その復讐としてXさんを殺害する計画を立てました。
BさんがXさん宅に侵入しXさんの首を両手できつく締めたところ、Xさんは目を覚まし自身がBさんに首を絞められていることに気づきましたが、「普段自分が悪いことをしているのだからBになら殺されてもいい。」と考えて、抵抗することなくBさんに殺害されました。
上記の場合、AさんとBさんにはそれぞれどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~偽装心中~
本件①においてVさんはAさんが追死するということを信じて自殺を行っていますが、追死すると嘘をついたAさんの行為にはどのような罪が成立するのでしょうか。
Aさんは嘘をつくことによってVさんを殺害しているようにも思えますし、追死を約束することによってVさんに自殺の決意をさせているようにも思えます。
ここで、このようないわゆる偽装心中の場合に殺人罪(刑法199条)と自殺教唆罪(刑法202条前段)のどちらが成立するのかが問題となります。
これについて確かに行為者は追死をすると嘘をついているものの、自殺者はあくまでも自分の意思で自殺を行っている以上、偽装心中の場合には自殺教唆罪が成立するとも考えられます。
もっとも偽装心中において相手方が追死するというのは自殺を決意させる重要な事実であり、追死が嘘だとすると自殺を行う者の意思決定には重要な錯誤があったといえます。
そうだとすると自殺者の真意に基づく意思決定があったとはいえず、偽装心中の場合に自殺教唆罪を成立させるのは妥当ではないと考えられます。
上記考え方を用いると、本件Aさんの行為には殺人罪が成立します。
過去の判例(最判昭和33年11月21日)でも「甲(自殺者)は乙(行為者)の欺罔の結果乙の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に沿わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかである」と述べ、同様の事案で殺人罪の成立を認めました。
他に類似する例として、被害者を心理的に追い詰めることによって自殺をするしかないと思い込ませて自殺させた場合に「自殺の決意は真意に添わない重大な瑕疵のある意思である」があるとして殺人罪の成立が認められた例も存在します(福岡高宮﨑支判平成元年3月24日)。
~同意殺人罪~
次に②においてBさんは首を絞めてXさんを殺害しているので、Bさんの行為には殺人罪が成立するとも考えられます。
もっともXさんは「Bになら殺されてもいい」と考えているところ、Bさんによる殺人について被害者であるXさんの「承諾」(刑法202条後段)があるようにも思えます。
ここで、被害者の承諾があるが行為者がそれを知らずに被害者を殺害した場合に殺人罪と同意殺人罪のどちらが成立するのかが問題となります。
これについては様々な考えが存在するところで、法律の専門家の間で様々な意見が述べられています。
その一つには承諾について行為者の認識がない以上、同意殺人罪ではなく殺人罪の成立を認めるべきであると考える説があります。
もっとも被害者自身が自らの生命を放棄する意思を有しているにもかかわらず、それを考慮しないのは妥当ではないと思われます。
そこでたとえ行為者が認識していないとしても客観的には被害者の承諾が存在する以上、殺人罪ではなく同意殺人罪の成立を認めるべきだという説が有力です。
この考えを用いるとXさんは殺害されることについて内心で承諾をしているので、本件Bさんの行為には同意殺人罪が成立します。
またBさんはXさん宅に侵入しているので、かかる行為には住居侵入罪(刑法130条)が成立します。
~参考条文~
刑法130条 「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」
刑法199条 「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」
刑法202条 「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又はその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。」