仙台市青葉区 逮捕 建造物侵入罪
- 2019.11.27
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 仙台支部
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 仙台支部が解説します。
仙台市青葉区に住むAさんは同区内に本社を持つ建設会社に勤め、そこで経理の仕事を任されていましたが、一身上の都合により退職することにしました。
Aさんの勤務場所は、同じ青葉区内にあるビル内に設けられていた事務室内でした。
退職日、Aさんは荷物をまとめていたところ、上司(事務所の管理責任者)から事務所の鍵を返すように言われたため上司にその鍵を渡し、荷物を持ってました。
ところが、後日、Aさんは事務所内に忘れ物をしたことに気づきました。Aさんは会社を辞めた以上、会社や上司に連絡を取りずらいと思いどうすればいいか悩んでいたところ、バックのポケット内から予備として作っていた事務所のスペアキーを発見しました。
Aさんは「これを使って事務所に入ろう」と思い、スペアキーを使って事務所に入ったところ、ちょうどそのときかつてAさんの上司だったWが事務所内に入ってきました。
Aさんは、Wから何のために事務所に入ったのか、どうやって入ったのかいろいろ聞かれた挙句、仙台北警察署にその場で110番通報されてしまいました。
そして、Aさんは駆け付けた仙台北警察署の警察官に建造物侵入罪で現行犯逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ 建造物侵入罪、不退去罪 ~
建造物侵入罪について簡単に解説します。
建造物侵入罪は刑法130条前段に規定されています。
刑法130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
「住居」とは、人の日常生活に使用されている場所のことをいいます。
また、そうした場所に付属する場所(たとえば、敷地、庭など)も「住居」とされます。
「建造物」とは、学校や商業施設、駅舎など、人が出入りできる建物のうち「住居」を除いたものをいいます。
事務所も「建造物」に当たります。
住居に侵入した場合が住居侵入罪、建造物に侵入した場合が建造物侵入罪です。
つまり、両罪は、同じ条文の中に規定されていることが分かります。
住居侵入罪と建造物侵入罪に共通する「侵入」とは、住居や建造物を管理している人(管理者)の意思に反する立ち入り、をいいます。
管理者の意思は明確に表示される場合もあれば、明確に表示されていない場合でも、管理者の言動や犯人の行為の態様から推測されることもあります。
前者の例としては、建造物に「立ち入り禁止」などという看板が掲げられている場合でしょう。
こうした場所に、正当な理由なく立ち入った場合は、やはり管理者の意思に反する「侵入」として建造物侵入罪に問われる可能性があります。
また、後者の例としては、本件のような場合でしょう。
つまり、Aさんは明確には立ち入り禁止を告げられたわけではありません。しかし、Aさんが会社を退職したこと、事務所の鍵を返却するよう言われていることからすると、管理者としてはAさんの事務所内への立ち入りを禁止していると考えられます。
したがって、Aさんの立ち入りはやはり「侵入」に当たるといえ、建造物侵入罪に問われるおそれは高いと考えます。
Aさんがかつて事務所で勤務していたかどうかは関係ありません。
なお、一般的に、「侵入」に当たらず建造物侵入罪が成立しない場合でも、その後、管理者から退去するよう要求を受けたにもかかわらず、正当な理由なく退去しなかった場合は不退去罪に問われる可能性があります。
たとえば、訪問販売の例を考えると分かりやすいかと思います。
訪問販売での立ち入りは、通常は、「侵入」に当たらず建造物侵入罪は成立しないでしょう。
ところが、相手方から帰ってくださいと言われたにもかかわらず、しつこく勧誘等を続け、その場にとどまった場合は不退去罪に問われる可能性があります。
Aさんのようにかつて勤めていた会社に立ち入る場合は、やはり会社や上司に連絡するなどして承諾を得てから立ち入る必要があります。