東京中野 無料相談 強盗事件
- 2021.11.15
- コラム
東京中野に住むAさんは以前から知人Vさんと仲が悪かったため、Vさんを襲って痛めつけてやろうと考えました。
そこでAさんは夜道歩いているVさんの頭部を後ろからバットで殴り、Vさんを気絶させました。
その後Vさんがポケットに財布を入れていたことに気づいたAさんはついでにこの財布も盗んでやろうと考え、Vさんの財布を自身の鞄に入れて逃げ去りました。
このような場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~強盗罪~
本件でAさんはVさんに暴行を加え、その後にVさんの財布を持ち帰っているので、このようなAさんの行為には強盗罪(刑法236条1項)が成立するとも思われます。
刑法236条1項 「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。」
強盗罪とは条文にもあるように「暴行又は脅迫」を手段として「他人の財物」を奪った者に成立する罪であり、暴行や脅迫を用いずに「他人の財物」を盗んだ物には窃盗罪(刑法235条)が成立する可能性が高いです。
刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪をし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
これを本件について検討すると、AさんはVさんを殴った後にたまたま財布を見つけたことからVさんの財布を持ち帰っています。
つまりVさんをバットで殴った時点でAさんはVさんの財布を奪いつもりはなかったと考えられます。
では、このように暴行を加えた時点では財物を奪取する意思がなく、暴行を加えた後に財物奪取の意思が生じたとしても、「暴行又は脅迫」を手段として「他人の財物」を奪ったといえるのでしょうか。
ここで暴行・脅迫によって相手の反抗を抑圧した後に財物奪取の意思が生じた場合にも強盗罪の成立が認められるかが問題となります。
これについての一つの説として、たとえ暴行・脅迫の時点では財物奪取の意思が生じていなかったとしても、先に暴行を行って反抗抑圧状態を生じさせた上でその状況を利用して財物を奪っている以上、その行為は当初から財物を奪う意思をもって暴行が行われたのと同視し得るという考えが存在します。
この考えを用いると、暴行・脅迫によって相手の反抗を抑圧した後に財物奪取の意思が生じた場合にも強盗罪の成立が認められます。
ただこの考えは強盗罪の成立を広く認めることになってしまうので、被告人にとって不利な解釈であり妥当ではないとの批判も存在します。
この点、本件と類似する過去の裁判(大阪高判平成元年3月3日)では以下のように述べられました。
「財物奪取以外の目的で暴行、脅迫を加え相手方の反抗を抑圧した後に財物奪取に意思が生じ、これを実行に移した場合、強盗罪が成立するというためには、単に相手方の反抗抑圧状態に乗じて財物を奪取するだけでは足りず、強盗の手段としての暴行、脅迫がなされることが必要であるが、その程度は、強盗が反抗抑圧状態を招来し、これを利用して財物を奪取する犯罪であることに着目すれば、自己の先行行為によって作出した反抗抑圧状態を継続させるに足りる暴行、脅迫があれば十分であり、それ自体反抗抑圧状態を招来するに足りると客観的に認められる程度のものである必要はない」
この判例では、当初から財物を奪う意思をもって暴行が行われたのと同視し得るという先ほどの説とは異なり、強盗罪の成立には「強盗の手段としての暴行、脅迫」が必要であると述べられています。
ただ、必ずしも相手方を反抗抑圧状態にさせるほどの強度な暴行・脅迫が必要とされるわけではなく、「自己の先行行為によって作出した反抗抑圧状態を継続させるに足りる暴行、脅迫」があれば、強盗罪の成立が認められると考えられています。
これを本件について見てみると、Aさんは自らVさんを殴って反抗抑圧状態を招来させたあと、Vさんに対して何らの暴行・脅迫を行っていません。
したがってAさんは「自己の先行行為によって作出した反抗抑圧状態を継続させるに足りる暴行、脅迫」を行ったとはいえないので、上記判例の考え方を用いると本件においては強盗罪の成立は認められない可能性が高いです。
このように判断された場合、AさんがVさんの財布を持ち帰った行為には窃盗罪が成立すると考えられます。
そして、AさんはVさんをバットで殴って気絶させているので、この行為には傷害罪(刑法204条)が成立すると思われます。
刑法204条 「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」