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東京大田区 逮捕 現住建造物放火未遂 | 刑事事件の弁護士ならあいち刑事事件総合法律事務所

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東京大田区 逮捕 現住建造物放火未遂

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部

 

現住建造物放火未遂罪について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。

2021年10月、大田区在住のDは、ストレス発散のために、東急多摩川線車内の座席(縦幅1メートル、横幅4メートル)を、D所有のライターで火をつけた。Dが火をつけた直後、同車両に乗車していたSがすぐさま非常ブザーを押したため、、電車は一時停止した。5分後、駅員による消火作業の結果、座席は10センチメートル四方分焦げた跡が残ったものの、負傷者は出なかった。その後Dは、池上警察に逮捕された。

この場合、Dは何の罪に問われるでしょうか。

*フィクションです

 

・現住建造物等放火罪の成否

近年、小田急線や京急線などの電車内で放火や殺人未遂事件が発生しています。今回のケースでは、東急多摩川線車内の座席に火をつけた場合です。この場合、どのような罪が成立するのか、以下検討します。今回問題となる現住建造物等放火罪については、刑法108条に記されています。

 

第108条(現住建造物等放火)

放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

 

犯罪が成立するには、「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるので、構成要件に該当するか、から検討します。

第一に、「放火して」ですが、放火行為とは「客体の燃焼を惹起させる行為」をいいます。また、直接客体に点火することのみならず、媒介物を利用して目的物へ導火させることも放火行為に当たります。今回のケースでは、Dは自己のライターを用いて座席に直接火をつけたので、「放火して」に該当します。

第二に、「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を」です。「現に人が住居に使用」とは、現に人の起臥寝食する場所として日常使用されているものを指し、昼夜間断なく人の現住する必要はありません。また、放火の時点で人が現在する必要もありません。「現に人がいる」とは、放火行為時に、その内部に犯人以外の者が現実にいることを指します。今回のケースでは、Dの放火行為時に少なくともSは乗車していたので、「現に人がいる…電車」に該当します。

第三に、「焼損した者」です。「焼損」とは、「火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続し得る状態に達したこと」であるとされています。判例では、居室の床板(約30センチメートル四方)及び押し入れの床板・上段(それぞれ91センチメートル四方)を燃焼した事案において、「被告人の放火が媒介物を離れて目的物である家屋の上記部分に燃え移り独立して燃焼する程度に達した」と判示したもの(最判昭25・5・25)や、押入れ内壁紙にマッチを放火して天井板約30センチメートル四方を燃焼させた事案において、「火勢は放火の媒介物を離れて家屋が独立燃焼する程度に達したことが認められる」と判示したもの(最判昭23・11・2)があります。今回のケースでは、駅員による消火作業の結果、座席は10センチメートル四方分焦げました。この焦げた面積が上記判例の事案より小さいことや、本件座席の縦・横幅との割合、消火までの時間が僅か5分であることを考慮すると、いまだ独立して燃焼を継続しうる程度に達したとは言えず、「焼損した」に該当しない可能性が高いといえます。よって、Dは「焼損した者」に該当しません。

もっとも、焼損という結果は発生しなかったものの、Dは放火行為に着手しているので、本罪の未遂罪(112条)が成立します。

 

・器物損壊罪との違い

刑罰について解説する前に、器物損壊罪(261条)との違いを少し解説します。

器物損壊罪は、「他人の物」を「損壊(その物の効用を害する一切の行為)」した場合に成立する犯罪です。例えば、他人のスマートフォンをハンマーで粉々にした場合、電話やメールなどが出来なくなってしまう=スマートフォンの効用を害するといえ、器物損壊罪が成立します。≪器物損壊罪の詳細な解説は【ケース30】を参照してください。≫

では、今回のケースはどうでしょうか。今回は、Dによる放火行為により、座席に焦げ跡が残ってしまったので、一見すると座席の効用を害されており、器物損壊罪が成立するように思われます。確かにそのように考えることも出来ますが、一般的にこのような場合には、現住建造物等放火罪が適用されます。なぜなら、放火罪と器物損壊罪は主として「公共の危険」の有無で区別されているからです。

「公共の危険」とは、他の物件へ延焼する具体的危険の発生を意味します。そして、放火の罪で「公共の危険」が明文化されているのは、109条2項と110条であり、今回のケースで問題となった108条や109条1項については、条文上文言として記載されていませんが、108条・109条1項の客体に対する放火行為は通常「公共の危険」を内包する行為であることに鑑み、「公共の危険」があると擬制される、若しくは109条2項・110条よりは緩やかな「公共の危険」を要すると考えられています。≪放火の罪の詳細な解説は【ケース20】を参照してください。≫

今回のケースでは、上記の通り座席は「焼損」しなかったものの、万が一消火が遅れれば、座席が全焼したり、煙の吸引により他の乗客の身体・生命に危害を加えた可能性があります。よって、Dの放火行為は「公共の危険」を包含していたといえ、器物損壊罪ではなく、現住建造物等放火罪が適用されたということです。

なお、仮にDがナイフで座席を切り付けていた場合には、器物損壊罪が成立するといえるでしょう。

 

・刑罰について

では、成立したとしてどのような刑罰が科せられるのでしょうか。43条で「その刑を減軽することができる」と記されており、有期の懲役又は禁錮を減軽するときはその長期及び短期の二分の一を減ずる(68条3号)ので、108条で「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と記されていることから、期間に関しては、有期懲役の場合、「2年6ヶ月以上10年以下」に減軽できるということになります。ただし、本罪は任意的減軽であるため、裁判官の判断によっては減軽されない可能性もあります。

 

 

・まとめ

よって、Dの行為は現住建造物等放火未遂罪(112条、108条)にあたり、死刑又は無期懲役か、減軽される場合には「2年6ヵ月以上10年以下」の懲役が科せられるということになります。

刑に関しては、前科の有無、情状酌量の余地の有無等によって変わります。

 

 

池上警察署 〒146-0082 東京都大田区池上3丁目20-10 TEL:03-3755-0110

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