東京新宿 わいせつ物陳列罪
- 2022.07.11
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部
わいせつ物陳列罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
東京都新宿区に住むAさんは知人Bさんから女性の裸が写った写真を数枚譲り受けました。
Aさんはこの写真に多少のいやらしさが含まれていることは認識していましたが、これは芸術作品であるから刑法上のわいせつな物には当たらないと考えていました。
Aさんがこの写真を誰でも閲覧のできるインターネットサイトで公開してしまいました。Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~わいせつ物陳列罪~
本件でAさんは女性の裸が写った写真をインターネットサイトで公開しているので、このようなAさんの行為にはわいせつ物陳列罪(刑法175条1項)が成立する可能性があります。
刑法175条1項 「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。」
同罪における「頒布」とは、不特定又は多数人に対してその物を交付することをいいます。
本件でAさんは写真をインターネットサイトで公開しているだけであり、誰かにその写真を交付しているわけではないので、Aさんの行為は「頒布」には当たらないと考えられます。
一方、同罪における「公然と陳列」とは不特定又は多数人が認識し得る状態にその物を置くことをいいます。
本件でAさんは誰でも閲覧のできるインターネットサイトに写真を公開しているところ、本件写真は不特定多数の人が認識し得る状態にあるといえるので、Aさんは本件写真を「公然と陳列」したと判断される可能性が高いです。
もっとも、本件で「公然と陳列」されているのは女性の裸が写った写真ですが、このような写真は必ず「わいせつ」な物にあたるのでしょうか。
ここでわいせつ物陳列罪における「わいせつ」の判断方法が問題となります。
まず過去の判例(最判昭和26年5月10日)で、わいせつとは「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するもの」をいうと述べられました。
そして、その判断について別の判例(最判昭和55年11月26日)では「文書のわいせつ性の判断にあたっては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から当該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうったえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合」して判断がなされるべきだと示されました。
この判例の考え方を簡単に言うと、わいせつの判断に際しては性的な描写が描かれたその部分にのみに着目するのではなく、その作品の全体からわいせつ性を判断するべきということです。
なので、本件においてAさんが有していた写真についても、女性の裸が写っているからといって直ちに「わいせつ」性が認められるわけではなく、個々の事案ごとに個別的な検討が重要となります。
ただし、仮に本件写真が「わいせつ」な物に当たると判断されたとしても、Aさんはこの写真は芸術作品であるからわいせつな物には当たらないと考えています。
このような場合においても、Aさんの行為にわいせつ物陳列罪の成立を認めてもよいのでしょうか。
この点に関しては、その物が同罪の「わいせつ」物にあたるということについての完璧な認識がなくとも、社会の通常な判断においてその物がいやらしいものであるという認識があれば同罪の成立が認められると考えるのが一般的です。
これを本件について見てみると、Aさんは確かに本件写真が芸術作品であるからわいせつな物には当たらないと考えていますが、この写真に多少のいやらしさが含まれることは認識していました。
そうだとすると、Aさんは少なくとも本件写真がいやらしいものであるという認識があったといえるので、わいせつ物陳列罪の成立は否定されません。
以上より、本件写真が「わいせつ」な物に当たると判断された場合、Aさんの行為にはわいせつ物陳列罪が成立すると考えられます。