東京都調布市 逮捕 強盗致死傷事件の共犯(教唆犯)②
- 2020.07.20
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が、強盗致死傷事件の共犯(教唆犯)について解説します。
~前回のブログの続き~
東京都調布市に住むAさんは、調布駅付近にある知人Vさんが管理する倉庫内には何も保管されていないことを知りながら、「Vの倉庫に行って、金目の物を盗んだらいい。」とBさんに告げました。
しかしその日はたまたま倉庫内にダイヤモンドが保管されていたのでBさんはそのダイヤモンドを盗み、そこから逃げる際にVさんに暴行を加え怪我をさせました。
このような場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~教唆犯~
前回のブログではBさんの行為には住居侵入罪(刑法130条前段)、強盗致傷罪(刑法240条前段)が成立する可能性が高いと説明しました。
では、「Vの倉庫に行って、金目の物を盗んだらいい。」とBさんに告げたAさんの行為にはどのような罪が成立するのでしょうか。
Aさんは犯罪を実行するように唆す行為をしているので、この行為に教唆犯(刑法61条1項)が成立しないか検討していきます。
まず、教唆犯とは刑法で以下のように定められています。
刑法61条1項 「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科す。」
そしてこの条文における「教唆」を簡単に言うと、教唆された者に一定の犯罪を実行する決意を生じさせることをいいます。
これを本件について見てみると、Aさんの発言によってBさんはVさんが管理する倉庫に侵入しているのでAさんが倉庫に入るように唆した行為には住居侵入罪の教唆犯が成立すると考えられます。
次にAさんはBさんに「金目の物を盗んだらいい」と告げているところ、この行為には窃盗罪(刑法235条)の教唆犯が成立するようにも思われます。
ただ犯罪が成立するには罪を犯す意思(故意、刑法38条1項)が必要とされていてるのですが、Aさんに教唆の故意は認められるのでしょうか。
本件でAさんはVさんが管理する倉庫内には何も保管されていないと誤信してBさんに窃盗を唆しているところ、Aさんは窃盗の結果は生じないと思って教唆行為をしているので教唆の故意は認められないとも考えられます。
ここではじめから未遂で終わらせるつもりで教唆をした場合にも教唆の故意が認められるかが問題となります。
これについて教唆犯が罰せられる根拠が正犯(実際に犯罪を実行した者)を通じて犯罪にあたる結果を生じさせる危険を惹起させることにあることを考慮すると、教唆においても結果発生の認識が必要と考えるのが一般的です。
よって、教唆の故意が認められるには正犯が既遂結果を惹起させることを認識・予見していることが必要であると考えられます。
反対に、結果発生を認識・予見していない場合等には教唆の故意が認められないと考えるのが妥当です。
これを本件について見てみるとAさんはVさんが管理する倉庫にはなにも保管されていないと考えて教唆行為を行っているので、Aさんは窃盗の結果発生を認識・予見していません。
したがってAさんに教唆の故意は認められず、Aさんの行為に窃盗罪の教唆犯は成立しないと判断される可能性が高いです。
以上より、Aさんは建造物侵入罪の教唆犯の罪責を負うと考えられます。
~参考条文~
刑法130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法240条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。