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東京都池袋 逮捕 逮捕・監禁致死傷事件

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 東京支部

 

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が, 逮捕・監禁致死傷事件について解説します。

2020年10月2日、豊島区在住の高校教師であるZは、五年前に卒業した生徒を池袋駅付近在住のZ宅に集め高校の同窓会を開くことにした。Zはサッカー部の顧問をしており、生徒思いで評判の熱血教師であった。Z宅に集まったのは当時のキャプテンであったP、部員のA、B、Cであった。夕食を終え、同窓会終了間近になった時、Pは仕事の疲れから横になって寝てしまった。それを見たZは、「もう夜遅くだし、お前らは先帰っていいぞ。」と言い、A、B、Cは言われるがままにZ宅を出た。自宅にP以外いないことを確認したZは、睡眠中のPを部屋の一室に連れて行った。実はZには監禁という趣味があり、これまで何人もの生徒を同様の手口で監禁することを試みていたが、どれも失敗に終わっていた。今回は上手くいくと確信したZは、Pが寝ている部屋の鍵を閉め、部屋の中からは絶対に出ることのできない状態にした。翌朝、目を覚ましたPはZ宅の部屋に閉じ込められているのに気付いたが、Zが鍵を開け忘れたのだと思い、部屋で待機していたが、いつまで経っても一向に開く気配がないため、部屋の中からZを大声で呼んだ。しかしZからは「俺は監禁することが趣味なんだ。気が向いたら開けてやるよ。」と言われ、最初は冗談だと思っていたPも、12時間開かないことに恐怖を覚え、また慕っていたZに裏切れたという気持ちから、部屋の中にあったネクタイを使って自ら命を絶った。2020年10月4日、部屋が静かになったのでPに食事を与えようと様子を見に部屋を開けたZは、床にPが倒れているのを発見した。Pの首にネクタイを強く締め付けた跡が残っていたため、Pが死んでいるかもしれないと思ったZは慌てふためき、すぐさま病院に連れて行ったが死亡が確認された。その後病院側が池袋警察に通報し、Zは池袋警察に逮捕された。

この場合、Zは何の罪に問われるでしょうか。

 

・逮捕及び監禁罪
第220条(逮捕及び監禁罪)
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

逮捕及び監禁罪については、刑法220条に記されています。監禁罪に関しては凶悪事件や未解決事件の一種として、ニュースなどで多くの方が耳にしていると思います。では実際にどのような行為が監禁罪として罪に問われるのでしょうか。今回のケースを基に検討していきましょう。
犯罪が成立するには、「構成要件に該当し違法且つ有責な行為」である必要があるので、まずは構成要件に該当するかから検討します。

第一に、「不法に」ですが、ここでいう「不法に」とは、違法性の一般原則を注意的に規定したものにすぎず、構成要件的要素ではないとされるため、警察官の逮捕行為などの適法行為以外の行為であるならば該当すると言えます。よって今回のケースも該当するといえます。
第二に、「人を」ですが、本罪の客体である人は、身体活動の自由を有する者に限定されます。身体活動の自由は、意思に基づく身体活動能力を前提としますが、事実上意思に基づく身体活動をなし得る能力があれば足りるとされます。したがって、幼児や精神病者も本罪の客体になり得ますが、嬰児や意識喪失状態の者は本罪の客体になりません。また、身体活動の自由とは、身体活動の潜在的・可能的自由であるため、逮捕・監禁行為の時点で被害者に具体的な意思に基づく身体活動能力があることは不要であるとされています。よって、泥酔している者も熟睡中の者も本罪の客体になります。今回のケースでは、ZはPを監禁目的でZ宅の部屋の中に閉じ込めました。また監禁当初、Pは熟睡していましたが、前述した通りそのような場合も本罪の客体になるので、鍵を閉めた時から、本罪に該当します。
第三に、「逮捕し、又は監禁した者は」ですが、逮捕とは、「人の身体を直接的に拘束して、その身体活動の自由を奪うこと」をいいます。逮捕と言えるためには、多少の時間的継続を必要とします。よって例えば、羽交い締めのような瞬間的なものは逮捕ではなく、暴行として処理されることになります。一方、監禁とは、「人の身体を間接的(場所的)に拘束して、その身体活動の自由を奪うこと」をいいます。つまり、人が一定の区域から出ることを不可能又は著しく困難にして身体活動の自由を奪うことです。場所については、部屋などの囲まれた場所であることを必要としません。判例では、被害者を原動機付自転車の荷台に乗せて1キロほど疾走した行為に監禁罪を認めました。今回のケースでは、Pは部屋の鍵を持っておらず、Zによって部屋の中からは絶対に出ることのできない状態にさせられました。よって、本罪に該当します。
違法性に関しては正当防衛(36条1項)などの事実はなく、責任に関してもTは心神喪失者等でないので、以上見てきたことをまとめるとZの行為に監禁罪(220条)が成立するといえそうです。
ところが、今回のケースでは、Pは部屋の中に合ったネクタイを使って自ら命を絶ちました。よってこの場合、逮捕等致死罪が成立するのでしょうか。それとも殺人罪が成立するのでしょうか。あるいは、ZはPの死亡について何も責任を負わないのでしょうか。

 

・逮捕等致死罪か、殺人罪か

逮捕及び監禁によって被害者を死傷させた者については、刑法221条に記されています。また殺人罪については、刑法199条に記されています。
第221条(逮捕等致死傷)
前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い罪により処断する。
第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

両者を区別する基準は、行為者に殺人の故意があったかどうか、つまり殺意があったかどうかによって区別されます。今回のケースでは、Zは元々監禁という趣味がありました。そして自らの欲求を満たすために熟睡中のPを自室に監禁しましたが、様子を見に行った時点では食事を与えようと部屋を開けただけであり、またPが倒れていることに慌てふためき、すぐさま病院に連れて行った様子から、積極的にPを殺そうという意思はおろか、Pの死を許容していたような事情もないため、Zに殺意はないと考えられそうです。このように殺意がない場合は殺人罪は成立しません。
一方、逮捕・監禁という手段によって被害者を死傷させた場合は逮捕及び監禁罪の結果的加重犯として、逮捕等致死傷罪が成立します。判例では、行為者によって停車中の自動車のトランク内に監禁された被害者が、他の自動車の追突により死亡した場合や、監禁中に被害者が飛び降りて死亡した場合に、本罪の成立を認めています。逮捕者・監禁者自身の行為でなくとも、逮捕・監禁行為と人の死傷との間に因果関係があれば、致死傷罪が成立するのです。今回のケースでも、Zの監禁という行為によってPは自らの命を絶ったため、本罪が成立するといえます。

 

・逮捕等致死罪が成立しない場合

今回のケースは逮捕等致死罪が成立しますが、他の事情により本罪が成立しないケースを、加えて説明します。
まず、監禁の機会に日頃の恨みを晴らすために傷害を加えた場合です。例えば、今回のケースでは、Zが監禁に成功したことを機に、Pに暴行行為を加え全治5カ月の傷を負わせた場合です。この場合、本罪ではなく、監禁罪と傷害罪の併合罪(45条前段)として処理されます。その理由としては、行為者に監禁罪の故意だけはなく、傷害罪の故意が監禁という機会によって生じたといえるので、両罪が成立するということになるのです。
次に、適法な逮捕・監禁の結果、人を死傷させた場合です。前述した通り、適法な逮捕・監禁は、警察官による逮捕行為や、身柄拘束としての勾留などが挙げられます。このような適法な行為であっても、例えば警察官の過失行為によって被害者が死傷した場合は、警察官らに過失致死傷罪が成立する可能性があります。

 

・刑罰について

では、成立したとしてどのような刑罰が科せられるのでしょうか。本条では、「傷害の罪と比較して、重い罪により処断する。」と書かれています。この規定の意味は、傷害の結果が生じた場合には、逮捕及び監禁罪の刑罰と傷害罪の刑罰を比較し、刑罰の上限と下限の双方について重い方を刑罰とし、また、死亡の結果が生じた場合には、逮捕及び監禁罪の刑罰と傷害致死罪の刑罰を比較し、刑罰の上限と下限の双方について重い方を刑罰とするということです。
今回は死亡の結果が生じたので、逮捕及び監禁罪の刑罰である3月以上7年以下の懲役と傷害致死罪の刑罰である3年以上の有期懲役(20年以下)を比較すると、傷害致死罪の刑罰の方が重いので、よって、期間に関しては「3年以上20年以下」となります。

 

・まとめ

よって、Zの行為は逮捕等致死罪(221条)にあたり、3年以上20年以下の懲役が科せられるということになります。
刑に関しては本件の犯情を考慮するほか、初犯か前科を持っているかによっても変わります。

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