東京都立川市 無料相談 殺人事件の因果関係①
- 2020.03.14
- コラム
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 八王子支部
殺人事件の因果関係について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所八王子支部、が解説します。
東京都立川市に住むAさんは同じく東京都立川市に住む友人Vさんと仲が悪かったため、Vさんを殺してしまおうと考えました。
そこでAさんは深夜Vさん宅に侵入し、持っていた包丁で寝ているVさんの腹部を突き刺しました。
Vさんが死亡したと思ったAさんはこのままVさんを放置しておくと自身の犯行が発覚してしまうのではないかと恐れ、痕跡を消す為にVさんが寝ていたベッドに火をつけました。
その結果、Vさん宅は全焼しました。
その後の調べでVさんは腹部を刺された段階ではまだ生きていましたが、腹部の傷が原因で逃げることができなかったために焼死してしまったことが分かりました。
この場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~因果関係~
まず本件でAさんはVさんを殺す為にVさん宅に無断で侵入しているところ、このAさんの行為には住居侵入罪(刑法130条)が成立すると考えられます。
また、AさんはVさんを殺す意図でその腹部を刺していますのでこの行為に殺人罪(刑法199条)が成立するようにも思われます。
ただ、本件でVさんの死因はAさんに突き刺されたことではなく焼死であることが判明しています。
このような場合にもAさんの行為に殺人罪の成立が認められるのでしょうか。
ナイフで刺すという行為によって直接的にVさんが死亡したわけではないところ、Aさんの行為とVさんの死亡結果との間に因果関係が認められるかが問題となります。
これについて、因果関係があるかどうかは条件関係(「この行為がなければ結果が生じなかった」という関係)の有無により判断するという考えもあります。
ただこのような考えではあまりに広く因果関係を認めてしまうことになるので、条件関係があったうえで行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に因果関係を認めるのが妥当であると考えられます。
そして、行為の危険性が現実化したといえるかどうかは①行為の危険性②介在事情の異常性③介在事情の影響等が判断の要素となります。
本件について見てみると、Vさんは腹部の傷がなかったら焼死することもなかったといえるので条件関係は認められると思われます。
そして、確かにVさんの死因は焼死であるのでAさんによる放火という介在事情の影響は大きい(③)とも考えられます。
しかしAさんによるVさんの腹部を突き刺すという行為はそれ自体で死の結果を生じさせ得る危険なもの(①)であり、殺害を計画している者が証拠隠滅のために現場に火をつけることはあり得る行為でその異常性は高いとは言えません(②)。
このように考えると本件Aさんによる刺傷行為はVさんが焼死する危険を含む行為であって、Vさんの死亡結果はAさんの行為の危険性が結果へと現実化したものと判断されると思われます。
この判断によると、Aさんの行為とVさんの死亡結果との間には因果関係が認められます。
ただAさんの行為とVさんの死亡結果との間に因果関係が認められたとしても、Aさんに殺人罪の故意が認められなければ罪は成立しません(刑法38条1項本文)。
次回のブログでAさんに殺人罪の故意が認められるか、またAさんに他の罪が成立するかを検討していきます。
~参考条文~
刑法38条1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
刑法130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。