横浜市青葉区 逮捕 恐喝未遂事件
- 2019.10.30
- コラム
あいち刑事事件総合法律事務所 横浜支部
横浜市青葉区に住むAさん(23歳)は、元交際相手であったYさん(22歳)と現在交際している男性Vさん(21歳)を痛めつけてやろうと思い、Vさんを呼び出し、Vさんに「お前のせいでおれの人生めちゃくちゃになったわ。」と言ってVさんの腹部を1回殴りました。そして、AさんはVさんに「迷惑料として50万円払ってくんない?」「払えなければどうなるかわかってるよね?」「おれが被った被害をお前にお見舞いしてくれるわ。」「Yにもそう伝えてくれ。」と言いました。ところが、後日、Aさんは神奈川県青葉警察署の警察官に暴行罪、恐喝未遂罪で逮捕されてしまいました。Aさんから上記のことを言われたVさんが警察に相談した結果、本件が発覚したようです。逮捕の通知を受けたAさんの両親は、Aさんとの接見を刑事事件の経験豊富ね弁護士に依頼しました。
(事実を基にしたフィクションです。)
~ 恐喝罪 ~
恐喝罪は刑法249条に規定されています。
刑法249条
1項 人を恐喝して財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。
「恐喝」とは,財物の交付又は財産上不法の利益を得るために行われる「暴行」又は「脅迫」のことをいいますが,恐喝罪の場合,一般的に脅迫行為(害悪の告知)が行われることが多いと思われます。恐喝罪の暴行、脅迫の程度は、
相手方の反抗を抑圧するに至らない程度
であることが必要とされています。
相手方に、
困惑、不安の念(もっとも、困惑といっても、単に「困っちゃうな」などという程度ではなく、人の自由意思を制限、妨害するに足りるものであることが必要です)
を生ぜしめるに足りる程度のものであることが必要です。
恐喝罪では、この「暴行」、「脅迫」が行われれば恐喝罪の
実行の着手あり
とされ、財物を取得できなくても同罪の未遂犯が成立します。
刑法43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
刑法250条
この章の罪の未遂は、罰する。
本件では、Aさんは当初、Vさんを「痛めつけてやろう」という意思のみを有していました。つまり、Aさんは、当初、Vさんからお金を脅し取ろうという意図(故意)はなく、Vさんの腹部を1回殴った後にその意図が生じていることが認められます。
したがって、AさんのVさんに対する暴行行為は、恐喝罪の「暴行」と評価することはできず、基本的に、別個の暴行罪(刑法208条)と評価されます。
刑法208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
ただし、AさんがVさんに暴行を加え、Vさんが怯んだことを利用してVさんから財物を脅し取ったという場合は、その暴行は恐喝罪の「暴行」と評価され、暴行罪は恐喝罪に吸収されて暴行罪には問われません。
~ Vさんに対する脅迫によってYさんがお金をだしたら? ~
では、Vさんに対する上記脅迫行為によって、Yさんが怖くなってYさんのポケットマネーから50万円を出した場合、Vさんに対する恐喝既遂罪は成立するのでしょうか?
この点、恐喝罪の
被喝取者(実際に暴行、脅迫を受けた方)と被害者(財産的損害を被った方)は同一である必要はない
とするのが判例(大判昭11年1月30日)の考え方ですが、その場合は、
被喝得る取者は恐喝の目的となった財物又は財産上の利益について処分をなし得る権限又は地位にある者
でなければならないとするのが判例(大判昭6年4月12日)の考え方です。
この点は、VさんはYさんにとって単なる交際相手に過ぎず、Yさんの財産を処分し得る地位にあるとは言い難いです。
したがって、この場合、やはりVさんい対する恐喝既遂罪は成立せず、恐喝未遂罪が成立するにとどまります。