東京武蔵野 無料相談 正当防衛
- 2021.07.10
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弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所 八王子支部
正当防衛について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所八王子支部が解説します。
Aさんは,東京武蔵野市に住む友人Vさんとお酒を飲んでいる最中に口論になり、Vさんを殴ってしまいました。
その日はその後すぐに解散したのですが、後日AさんのもとにVさんから電話があり「いますぐ俺の家に来い。あの時殴られたこと、俺は忘れていないぞ。倍にして返してやるから見とけ!」と告げられました。
AさんはVさんから何かしらの攻撃を受けることを予測していましたが、この機会にVさんを痛めつけてやろうと考えてバットをもってVさん宅に向かいました。
そしてVさん宅に着いた途端にVさんが殴りかかってきたので、AさんはバットでVさんを殴り返しました。
Vさんが全治数か月の怪我を負った場合、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
(この話は事実を基にしたフィクションです。)
~正当防衛~
本件でAさんはVさんをバットで殴り全治数週間の怪我を負わせているところ、このような行為には傷害罪(刑法204条)が成立すると思われます。
もっともAさんはVさんが殴りかかってきたことに対応して、かかる暴行に及んでいます。
そこでAさんに正当防衛(刑法36条1項)が成立しないかが問題となります。
刑法36条1項 「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」
簡単に言うと、①「急迫不正の侵害」があり②「防衛」の意思が認められる場合には③「やむを得ずにした行為」は違法性が阻却されるということです。
以下、本件で①②③を満たすか検討していきます。
①「急迫不正の侵害」について
まず本件ではVさんがAさんに殴りかかってきているところ、Aさんの身体に対する「急迫不正の侵害」が問題なく認められるようにも思えます。
もっともAさんはこの機会にVさんを痛めつけてやろうと考えており、いわゆる積極的加害意思を有しています。
このような場合にも「急迫不正の侵害」を認めてもよいのでしょうか。
これについて「急迫不正の侵害」を検討する前提として、まず正当防衛の趣旨が問題となります。
この点、正当防衛は急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに侵害を排除するための私人による対抗行為として例外的に許容されたものです。
したがって、行為者と相手方の従前の関係・侵害の予期の程度・侵害回避の容易性等対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして、対抗行為が正当防衛の趣旨から許容されるものとはいえない場合には「急迫不正の侵害」は認められないと考えられます。
過去の判例(最決平成29年4月26日)でも同様の判断が下されました。
これを本件について見てみるとAさんは以前にVさんと揉め合いになっており、Vさんから電話で「倍にして返してやるから見とけ!」と告げられているので、Vさんから何かしらの攻撃を受けることを予測できています。
また、AさんがVさん宅に向かわなければ侵害の回避も可能であったといえます。
そしてAさんは積極的加害意思を有しているところ、このようなAさんによる対抗行為は正当防衛の趣旨から許容されるものとは認められない可能性が高いです。
このように判断されると、本件において「急迫不正の侵害」は認められません。
以上より、Aさんに正当防衛は成立しないと考えられます。
~過剰防衛~
仮に本件においてAさんが積極的加害意思を有しておらず、自身の身体を守るためにバットでVさんを殴った場合、Aさんに正当防衛は成立するのでしょうか。
①「急迫不正の侵害」について
本件で確かにAさんはVさんによる何かしらの暴行を予測していますが、ただ単に侵害を予測していたからといって「急迫」な侵害と認められないのは妥当ではありません。
そして本件でVさんがAさんに殴りかかっている以上、Aさんの身体に対する「急迫不正の侵害」があったと認められると考えらます。
②「防衛」の意思について
「防衛」の意思とは急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいいます。
本件でAさんは自身の身体を守るためにバットでVさんを殴っているので、Vさんによる急迫不正の侵害を避けようとする意思を有しているといえます。
よって、Aさんには「防衛」の意思が認められると考えられます。
③「やむを得ずにした行為」について
「やむを得ずにした行為」とは、防衛行為として必要性と相当性を有する行為をいうと考えられています。
これを本件について見てみるとVさんがAさんに殴りかかってきているので、Aさんは何らかの防衛行為を取る必要あったといえます。
もっともAさんは素手で殴りかかってきているVさんに対してバットで殴り返しており、このような防衛行為は相当性を欠くと判断される可能性が高いです。
以上よりAさんには正当防衛は成立せず、過剰防衛(刑法36条2項)が成立すると考えられます。
~条文~
刑法36条2項 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
刑法204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
武蔵野警察署 東京都武蔵野市中町2丁目1-2 042-393-0110